第92話番外編 夢の2世帯住宅

 

母様達からお仕置きと称した着せ替え人形が終わり、謹慎が終わった後。

気が付くと────


屋敷が増えていた。


「いつの間に……」


それは立派な屋敷であった。

とても、少し外に出られなかった間に建てられたものとは思えない。


「あぁ、リューは知らなかったっけ? お祖父様達も随分と張り切っていたからね、予定より随分早く完成したみたいだよ」


驚いてる俺の横で、兄様が何とも無しに言った。

兄様は前から知っていたようだ。

俺は毎日疲れていた事もあり、全く気が付かなかった。

魔法で音を遮断したりもしていたのかもしれない。


「……お祖父様は領地経営があるのでは?」


確かに前にそんな話を言っていたが、仕事があるから実現はしないと思っていた。


そう言えば、“リュートは私達と毎日会えたら嬉しいだろう?”と聞かれた事があった。

まさか、本当に建てるとは……。


「確か、リュートに空間魔法で領地と行き来をするとか言っていたけど」


「全くの初耳なのですが……」


初耳ではあるが、もう決定事項なのだろう。

屋敷が建っている以上、王様の許可も既に取っていそうだ。


「ははは、ほら彼処からここの別邸に繋がってるみたいだよ」


兄様の指差した方へ視線を向けると、俺達のいる別邸と新たに建てられた屋敷は繋がっていた。

何時でも自由に行き来が出来そうだ。


「──私は反対したのだがな」


「父様っ! おはようございます」


俺達が窓の外を眺めていると、不機嫌そうな父様が現れた。

不機嫌というより、嫌そうとも言えるかも知れない。


「おはよう、リュート……全く、あの人達はこんなものを勝手に作って」


「え? 勝手になのですか?」


てっきり父様が許可をだしたのだとばかり思っていた。


「あぁ、私はきっかりと断った。だが、私が仕事で居ないうちに着工して、帰ってきた頃には止められない状態でだった……どうやったのか、カミラも丸め込んでいたからな」


そう言った父様の顔は非常に悔しそうだった。

余程、家の2世帯住宅化が不満らしい。


父様……相当、一緒に暮らすの嫌がっているな。


俺達はひとしきり屋敷を眺めた後、朝食を取る為に部屋へと移動した。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「リュート、ついに工事が完了したのだ。もう見たか? これで、これからは毎日リュートに会えるぞ」


「うふふ、毎日リュート君に会えて私は嬉しいわ!」


父様に反して、お祖父様とお祖母様はいたく上機嫌だ。

そんな2人を見て、父様が眉間の皺を深くした。


「私は一切許可を出してませんがね」


「まぁ、ヴィンセント。そう親を邪険にするものではないわ。それにもう建ててしまったんですもの。既に終わった事を何時までも口にするのは紳士ではないわよ」


「そうだ、ヴィンセント。器が小さいぞ」


不満を口にした父様に、お祖父様とお祖母様が次々と責め立てる。

いつも毅然としている父様が、まるで子供のようで少し面白い。

母様も俺と同様に思っているのか、ニコニコと3人を見守っている。


「ふふ、皆仲良しね!」


隣に座っている母様が俺にこっそりと囁いた。


「父様に言ったら違うと言われそうですけど……僕は賑やかで好きですよ」


前世は騒がしいのは好きではなかったが、今ではとても落ち着く。


「うん、私も好き!」


母様と2人、顔を合わせて笑った。








「今日は私がリュートに我が領地を見せる予定だ」


「うふふ、何を言ってるのかしら? リュート君は私と演劇を観に行くのよ?」


「今日は私の仕事が休みで家族水入らずなのだから、2人にはご退場願いましょう。今日はリュートとレイアスとカミラと私の4人で湖に出掛けます」




「「「リュート(君)は誰を選ぶのだ(のかしら)?」」」




でも、大の大人がこんな下らない事で一々争うのは、心底面倒臭いと俺は思う。

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