第37話04話 粘着系な悪役令嬢

  

突如現れたのは、エド様の婚約者にして悪役令嬢であるリリス。

茶会に割り込んで来たのは、これで2度目だ。

リリスは俺達の存在を無視して、すぐさまエド様に駆け寄りその腕に手を絡めた。


「エド様っ!! 先日は楽しかったですわっ! 今日はわたくしに会いに来てくださったのね! 言ってくだされば、出迎えをしましたのに」


「……」


リリスの余りの勢いに、エド様の表情筋がひきつっている。

リリスはそんなエド様に気付いていないのか、更に腕を深く絡めた。


……死んだ魚の目のような目をしている。


まだ幼いのにひどく憐れだ。 

心から同情する。


「リリス、皇太子の御前だ。無礼だぞ。それにお前はこの場に招かれていない。とっとと下がれ」


兄様が今すぐ本邸に帰るよう促す。

普段あんなに笑みを浮かべているのに、一切笑っていない。


わたくしはエド様の婚約者ですわっ!! ここにいる権利がございます!」


リリスが無茶苦茶な言い分を述べる。

離れようとするエド様をがっしりと掴み、全く離れる気配がしなかった。


エド様……可哀想。


日本だったらストーカーで訴えて接近禁止に出来るのに、こっちだと権力さえあれば理不尽な事でもまかり通ってしまう。


……この世界では魔導具なる物もあるし、いつか逃走用に空間魔法を付与した導具を作って上げよう。


何となくエド様は泣いて喜ぶのではないかと思った。


「はぁー、邪魔が入ったな。今日はお開きにしよう。エドワード、城に戻るぞ!」


「はいっ! 兄上っ!!」


埒があかないと思ったオズ様が席を立ち、エド様も促す。

エド様はすがりつくように兄からの助け船に乗った。


「まだ会ったばかりですのに嫌ですわっ! そうだ夕食はわたくしと共に家でとりましょう? 料理長に最高のものを用意致しますわ!!」


リリスはエド様の手を引き、本邸に連れていこうとする。

意外に力が強いのか、エド様は中々振り払うことが出来ない。


「リリス、お前皇太子の御前で何を言っている? いい加減にしろ」


見かねた兄様が、立ち上がって無理矢理リリスを引き剥がした。


「じゃあ、僕達は失礼しますっ!」


リリスから解放されたエド様は逃げるように、オズ様と屋敷から出ていった。


「何をなさいますのお兄様っ!?」


「それは此方の台詞だ。皇太子の前で何をやっているんだ? 分かっているのか? お前より遥かに格上の相手だぞ?」


「婚約者なのですから、エド様と共にいるのは当然でしょう!?」


「はぁー、お前とは話にならない。本邸に戻れ。リュー、ユーリ君また騒がしくしてすまないね」


人の話を聞く気配のないリリスに兄様は理解させるのを諦め、そして俺達にも騒ぎになってしまったことを詫びた。

俺は別にいいけれど、ユーリはこんな場面に出くわして可哀想かもしれない。


「お兄様も……エド様もこないだから、その妾の子ばかりっ! よくもわたくしの兄と婚約者に色目を使ってくれましたわねっ!? 絶対に許しませんわっ!!」


リリスは急に俺を睨み、怒鳴り付けて去っていった。


えぇっ!?

ここでまた俺に来んの?

こないだ鼻っ柱へし折ったのに懲りないな。

と言うか、色目って……俺男なんですけど?


嫉妬するにしても、せめて女相手にして欲しいものだ。

近付く者全てを排除されていったら、エド様も息がつまる。


そもそも、普通は友情とかが先に浮かばないのか?

…………コイツも腐っているのか?

そもそもなんで俺がヒロインポジションにいるんだよ!?


俺は全力で無実を主張したい。


「リュー……とばっちり? か…わいそう」


俺を気の毒に思ったのか、ユーリが俺の頭を撫でて慰めてくれた。


「ありがとうユーリ。君だけが僕の唯一の癒しだよ」


ささくれていた心に優しさが染み渡った。

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