第14話04話 腹黒<変態=残念でした。

 

泣かずにすんだと思ったら今度は鼻血が止まらなくなったようで、母様が急いで魔法をかけた。

血はすぐ止まって、母様が残ったものをハンカチでぬぐった。


「レイ君大丈夫っ?」


「カミラさん……違います」


「えっ? 何が??」


「世界一ではありません。宇宙一ですっ!」


兄様は唐突に叫ぶ。

周りは兄様の奇行についていけない。


この人、頭大丈夫だろうか?


「だから世界一ではなく、宇宙で一番可愛いです!」


「そっ、そう」


母様と父様は驚いている。

俺も驚いてる。

俺はゲームの性格しか知らないが、クールな性格で通っていたはずだ。

まだ子供とはいえ、その片鱗はあったのだろう。

だから母様達は驚いているのだ。

それが今は見る影がない。

顔は真っ赤に染まり、息はひどく乱れている。

しかも俺に対して、だ。

変態だ。

腹黒ではなく、これではただの変態だ。

まだ9歳という年齢だからこそ許されるが、あと数年早く生まれていたらアウトになるだろう。


「僕の天使! 僕のお嫁さんになってください!」


周囲が呆然としていると、興奮が収まらぬのかプロポーズをしてきた。


「れっレイくん?! リュー君は弟だよ?! だか」


だから無理なのだと言おうとした母様の言葉を遮り続けて言った。


「問題有りません。幸い血縁はありませんし、年齢も釣りあっています。あっ心配しないで下さいます。勿論僕が婿にはいります!」


問題はそこじゃねーよ!

俺男だし!


俺の中であったレイアス・ウェルザックのイメージが音をたてて崩れ去った。


「いくら可愛いかろうがリュートは男だ。嫁になど絶対にやらん」


凍った空気の中で父様が正論を述べる。


流石です、父様。


「大丈夫です、法なら変えてみせます!」


父様の正論にも兄様は諦める気配がない。


……駄目だ、この子攻略キャラなのに残念すぎる。


「黙れ小僧、調子に乗るな。例え法が許そうが私が認めんっ!」


へ?


「くっ、一番の障害は義父上でしたか……」


ほ?


「当たり前だ。私を越えられもしないものに息子はやらん」


は?


なんか父様が娘を嫁にやることを拒む頑固親父で、兄様が嫁に貰いにきた好青年みたくなってるんだけど……。

そもそも俺、OKだしてないですけど?

というか断固拒否だよ。俺にそっちの趣向はない!

というか父様も親バカはいってない!?

父様、ゲームでは氷の宰相様とか呼ばれてた筈じゃ………?

キャラが台無しだよ!!


「ふふふっ、リュー君はまだ6歳なんだから早いですよ。すっかりレイ君とヴィンセント様はリュー君にメロメロねぇ」


「母様、そういう問題じゃないかと……」


母様は穏やかに微笑んでそう言った。

母様は天然だった……年齢の問題じゃない。

その前にもっと大きな問題がそこにあるよ、母様。


もうやだ何この混沌カオス

……誰かまともな人はいないのか?

居たなら、早くこの意味の分からない茶番を止めて欲しい。


「それくらいにしてくださいませ。旦那様、レイアス様。此方の可愛いらしい坊っちゃんが困っておいでですよ?」


そんな俺の祈りが通じたのか、初老の燕尾服を来た男性が颯爽と現れた。


「セルバか、今戻ったぞ。」


「はい、お帰りなさいませ。奥方様を無事迎えに行かれたようでよう御座いました」


男性は母様を見て笑顔で言った。

その表情から母様の帰宅を、心から喜んでいるようだ。


「ところで……此方の可愛い坊っちゃんは何方ですかな?」


そして俺の姿見て父様に問うた。


「あぁ、私とカミラの子供だ。名はリュートと言う。この子も今日から此方で暮らす、準備を頼む」


「なんとっ! これは大旦那様方にも直ぐに報告致しなければなりませんね!」


「いい、私から直接伝えるつもりだ」


慌てて何処かに行こうとする男性を、父様が止める。

父様に俺以外の子供がいないとなると、唯一の直系になる。

公爵家全体としては、喜ぶべき事なのだろう。


「そうですか。これは何と喜ばしいことか! 大旦那様方も大変お喜びになります」


この男性も俺の存在に大層喜んでいるようで、俺達を見る目はとても優しい。


「セルバ、妻達を頼む。私はこれから王宮に上がる。」


「王宮へで御座いますか? 実に7年振りの再会です。ゆっくりしていけばいいのでは?」


「そうしたいのは山々だが……この子の眼を見てみろ。魔眼持ちだ。早急に王への報告が必要だろう」


「なんとこれはっ!?」


父様に言われ俺の瞳の魔法陣を覗き込むと驚愕の声を上げる。


「……確かに王への報告が必要で御座いますな。……分かりました。奥方様やお子様はお任せ下さい」


「頼んだぞセルバ」


「いってらっしゃいませ」


父様はそう告げるとまた馬車に乗り込んだ。


「「「いってらっしゃいませ」」」


俺と母様、兄様も馬車を見送った。

するとセルバと呼ばれた男性が俺の足下に膝まづいた。


「リュート様先程は挨拶も無しに申し訳御座いません。私は当家の執事をつとめておりますセルバと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


「はい、宜しくお願いします」


俺も挨拶を返す。

やっぱり執事なのか、有能そうだな。


「では離れの方にご案内致しますね」


「よろしくお願いします、セルバさん」


そして俺は右手を母様、左手を何故か兄様に繋がれて屋敷に案内されたのであった。


解せぬ。

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