第8話07話 襲撃

 

馬車での旅は順調だった。

食事や寝る時は少々不便だか、あと数日と思えば何とか耐えられる程のものだ。


「うーん、やっぱり床で寝ると首がいたくなるなぁ」


母様は首を痛めてしまったらしい。

俺は母様に抱き締められて眠っていたので、体の痛みは感じなかった。


「大丈夫ですか?」


俺は母様の首にマッサージする。

だが所詮幼児の握力、どこまで効果があるかは微妙だ。


「ん、大丈夫だよ。それよりも、リュー君の作るご飯が恋しぃ~」


この世界では余り料理が発達していないらしく、バラエティーが少ない。

母様はすっかり俺の作る料理の虜だ。

前世の独り暮らしの経験が、役立ってよかった。


「はい、次の町に着いたら沢山用意しますね」


「ケーキも忘れずにね!」


「ふふっ、勿論分かってますよ」


町に着いたらアップルパイでも焼くかな?


「そんなに小さいのに料理なんてしてるのかい? 凄い出来たこだねぇ」


俺達の話が聞こえたのか、急に馬車に乗り合わせていた老夫婦の奥さんに声をかけられた。


「はい、自慢の息子です。家の子は天使なんです!!」


母様が胸を張って、自信満々にこたえる。

その目から冗談ではなく、本気でそう思っている事が伺えた。


「なっ、母様恥ずかしいですっ!?」


自分で頬が真っ赤に染まるのが分かった。

母様は相変わらず親バカが入っている。


「照れちゃって、可愛いぃ~」


「仲のいい親子だねぇ」


「はいっ、それは勿論!」


そんな風に和気あいあいと、話しているときだった。


『キキィーッ』


大きな音と揺れと共に、馬車が急停車した。

何か異常事態が起きたようだ。


「リュー君……」


母様が俺を守るように抱き締める。


「なっ何が起きたんだい?!」


他の乗客たちがざわめきだした。


「ぐぁッ!?」


外で人の呻き声が聞こえたと思ったら、いきなりドアが開いた。


「おいっ、全員外に出ろ!」


開いたドアから、血が滴る剣を持った男が入ってきた。

あまりの事に乗客達は呆然として、男をただ見つめる。


「さっさとしろ! 殺すぞっ!!」


「ひぃっ!?」


剣を突きつけられた中年の男性が急いで外に出る。


「お前達もだ!」


その言葉を皮切りに、乗客客達が順に出ていく。


「……リュー君、私達も出よう。」


母様が俺の手を取って馬車からでると、外には馬車に付いていた2人の護衛の死体が転がされていた。

盗賊達は全部で20人近くいた。


「金は出す! だから命だけは助けてくれ!!」


商人の男が足下に膝まずいて許しを乞う。


「金ぇ? 何、当たり前の事言ってんだぁっ?」


「グェッ!?」


盗賊の男が商人の頭を踏み潰し、商人からは顔面を押し潰されたことにより苦悶の声が聞こえた。


「だれか助けて、死にたくない」


他の乗客達から口々にそんな言葉が漏れる。

皆、恐怖に震えていた。


「大丈夫。リュー君は私が絶対守るから」


母様が俺を抱き締め囁く。

……その手は震えていた。


「男は皆殺しだ! 女、子供は連れてって奴隷商に売り飛ばす!」


盗賊の男はそう宣言した。

その掛け声に従い、20人もの盗賊達が動き出す。

商隊には若い女が数人いて次々に盗賊達の馬車に連れていかれる。

そして、とうとう俺達の所にも盗賊の男が近づいてきた。


「ほぉ、こりゃエライ上玉な姉ちゃんじゃねぇか。すぐ売るなんて勿体ねぇ、俺達がたっぷり可愛いがってやるよっ!!」


そうして、下卑た笑い声とともに母様に触れようとした。

それを見た瞬間、勝手に体が動く。


「汚ない手で母様に触るなっ!」


男に飛びかかるが、腕を振り払われ簡単に倒れこむ。

その時、フードがするりと落ちた。


「リュー君っ!?」


母様が俺に向かって叫ぶ。


「何すんだっ!このっ糞餓鬼がっ!」


男が激怒し、叫ぶ。

俺は男を睨み付けた。


「ほぉ……フードなんて被って汚ねぇ餓鬼かと思ってたがとんだ上玉じゃねぇか! こりゃ、貴族の変態どもに高く売れるぞっ! 一生遊んで暮らせるっ!!」


俺の顔を見た瞬間、さっきまでの怒りから一転して興奮気味に叫んだ。

男が今度は俺に手を伸ばしてきた。


「ウォーターボールっ」


母様が叫んだ瞬間、男に水の球がぶつかって弾けた。


「このアマっ、何しやがる!?」


男は母様を蹴りあげた。


「うっ、リューく、ん」


母様が苦悶の声をあげながら、俺に手を伸ばす。

その瞬間、俺の中で何かが弾けた。

俺の周囲で炎が沸き上がる。


「なっなんだこれはっ!?」


薄汚い盗賊どもが途端に騒ぎ出す。

女を連れていっていた盗賊達もこの騒ぎに戻ってきた瞬間、逃げようとしたがすぐに炎に囲まれた。

炎は瞬く間に盗賊達の身体を包み、焼き始めた。

水属性の魔法を使えるものは、魔法で消そうとするが全く消える気配がない。

今まで試していた初級魔法と違って、確かな殺傷性を持つ炎が盗賊達に猛威をふるった。


「ギャアァッ!? アツイッ、助けてくれ!!」


「誰かたすけっ! 苦しいッ痛いッ!?」


「アツイアツイアツイアツイッー!!」


男達は焼かれながら、あまりの苦しみにのたうち回った。

血肉の焦げる嫌な臭いがする。


「死ね」


俺のその言葉とともに一気に燃え、空高く火柱を作った。





──炎が消えた頃、塵1つ残っていなかった。

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