鈴の音
あひみての
鈴の音
仕事から帰ってくると家の中に君の気配がなかった。出かける前にはいつもと同じように、じゃれあって、ハグをして、鼻先にキスをくれた君。僕が玄関の扉を開けるといつも嬉しそうに迎えてくれるのが常で、それが当たり前だと思ってた。
一緒に暮らし始めて一月と少し、とても仲良くやっていたし、少しずつ2人の間のルールも出来てきてたよね?僕たちはこのままずっと一緒にいられると思ってた。そう思ってたのは僕だけなの?なぜ何も言わずに出て行ってしまったの?確かに、ここ数日の君はどこか落ち着かなくて、心境の変化を感じてはいたんだ。けれど、それは一過性のもので、低気圧のせいだったり、蒸し暑いせいだったり、そんな些細な原因だと思っていたんだ。だって、君はいつも僕に寄り添ってくれて、頭を撫でてとせがんだし、ご飯を食べさせてと甘えた。僕は君を誰よりも愛していたし、君も僕を愛してくれてると思った。外の世界はとても汚れているし、君のような可愛い子がこんな時間に一人で出歩くには危険すぎる。
いなくなった君を探して、その愛しい名を呼びながらどれだけ歩いただろう。月明かりがこんなにも美しい夜に、君はどこに行ってしまったの?君の行きそうな場所は全て探したよ。僕に会う前の君がどこで何をしていたかなんて知らないし、興味もなかったけれど、ちゃんと聞いておけば良かった。少しは手がかりになったかもしれない。たくさん考えて、たくさん探したけれど、君はいない。胸にポッカリと穴が開くとはこういう事なのか…。玄関の前で、月を見上げると涙がこぼれた。
お願い帰ってきて…。
君がいつ帰って来てもいいようにご飯の支度をする事にしよう。君の好物をたくさん用意しよう。君が身につけていた鈴の音が聞こえない事がこんなにも寂しいなんて。
2日後、窓の外で微かに鈴の音が聴こえた。僕は君の名を呼びながら外へと飛び出し。耳をすませ鈴の音を探す。チリリン、チリリンと可愛い音を立てながら少しだけ汚れた君が帰ってきた。何事もなかったみたいに。そして、用意したご飯をペロリと平らげると、僕の膝で丸くなった。
「おかえり」
「にゃぁぁ」
2ヶ月後、三匹の子供が生まれた。白黒が二匹と、茶トラ。あの空白の2晩…。
君は浮気をしていたんだね…。気にしなくていいさ。この子達は僕の子供同然だ。優しい飼い主を責任を持って探すよ。
君をとっても愛してるんだ。帰ってきてくれてありがとう。
もう何処にも行かないで。
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