第46話天罰
ようやく一日が終わり,家に帰ってしずくが夕刊を広げると,
重体の20代の女性も死亡したと小さく記事が載っていた。
「何の落ち度もないのに若くして死ぬとは気の毒に。」
由紀が死んだときの瞬間を思い出してしずくは身震いした。
翌朝しずくが登校すると,校門付近が騒がしい。
しずくが何事かと物陰から目をこらすと,
校門付近にテレビ局の車が何台も止まってがやがやと人だかりがしていた。
リポーターや記者が
「亡くなった大河君はどんな人でしたか?」
と登校してきた生徒らにコメントを求めていたが,みな足早に去っていった。
大河は有名人でもないのになぜだろうかと思った。
しずくもマイクを向けられたが,
他の生徒にならって無言のまま,小走りで校舎の方に向かった。
始業まではしばらく時間があったのでいつものように文庫本を広げていると,
隣のクラスの男子が興奮した面持ちで教室に飛びこんできた。
「おい,うちの兄貴が大河の姉ちゃんと付き合ってるんだけど,
弟が無免許運転して2人も人を殺しちゃったから
遺族が怒鳴り込んできたって泣きながら言ってたって聞いたよ。
大河の家族はマスコミに追い回されて
家にも帰れないんだって。死体はまだ警察署に安置されているって。」
と一気にまくし立てた。
「今朝のニュースで昨日の夜に起きた死亡事故の加害者の身元が分かったら,
なんと中学生だったって言ってたけど,あれは大河のことだったのか!
事故を起こした軽自動車が映ってたけど,
あいつの家にあった車にそっくりだよ。
それに事故現場もあいつの家のすぐそばだし。」
と一人の男子生徒が言うと、
「未成年だから名前も出ないんだよな。自分も死んじゃってるから
捕まらないである意味逃げ得だな。」
と別なひとり。
「大河の両親は学校の先生だけど息子があんな事件起こしてどうなるのかな。」
と男子生徒たちが騒々しく騒ぎ立てた。
しずくは一昨日見た交通事故のニュースを思い出した。テレビでは
10代後半から20代の男性といっていたが,大河は身長180センチと
大柄だったので成人だと勘違いされたのだろう。
そのとき中山が金切り声を張り上げて男子の会話をさえぎった。
「違う!ミー君は悪くない!」
とほとんど泣き出しそうな震える声で中山は叫んだ。
一瞬その場が静まり返ったが,男共は爆笑した。1人が
「あんな奴死んで当然だね。天罰が下ったんだろ。」
と言い放つと拍手喝さいが起きた。
一時間目の数学の授業がつぶれて全校集会になったのでしずくはほくそえんだ。
数日後,しずくはまっすぐ家に帰らずに切手を買うために郵便局に寄った。
窓口で番号札を取り,自分の番が来るのを待っている間,
テレビでニュースが流れているのを見ていた。
女優よりも美しい顔立ちの女子アナがやや興奮した面持ちで
声を弾ませてニュースを読み上げていたので思わず視線がひきつけられた。
「たった今入ったニュースです。先日A県B市で起きた無免許運転で
死亡事故を起こした 中学生の乗っていた軽自動車から,
去年ひき逃げで死亡した被害者の女子児童の血痕と,
服の繊維が見つかったことが明らかになりました。
車両の底から血痕が見つかり,DNA鑑定の結果,
山野由紀ちゃん,当時8歳のものと一致したそうです。」
ここで忘れもしない,由紀が満面の笑みでほほえんでいる
写真が大きく映し出されたのでしずくは危うく気を失いかけたが
一言も聞き漏らすまいと,画面を見続けた。
「・・・更に,ひき逃げが起きた現場に残されていたわずかなガラス片が
この軽自動車のものと一致しました。
警察では死亡した少年がこのひき逃げ事件にも関
与していたとみて,家族からも事情を聞いています。」
まさか自分の妹を殺したひき逃げ犯が自分のすぐそばにいたとは・・・。
「畜生!そうと分かっていたなら,あいつを八つ裂きにしてやったのに!
もう死んでしまったから罵ってやることもできやしないなんて!悔しい!」
としずくは地団太踏んで悔しがった。
「番号札8番!」
と窓口で自分の順番がきて呼ばれていたのも耳に入らず,
しずくは郵便局を後にした。わき目も振らずに自分の家にかけていった。
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