あるかぞくのはなし

伊都頼子

別れが訪れる前に

いつもの駅

少女と母親

二人は寄り添い歩く

両手の買い物袋を揺らしながら


故郷に置いてきた母を思う

あと何年、彼女は自分の力で立っていられるだろう

人よりも足腰の弱い体をもって

重ねてきた苦労を想像する

それでもなお私は、心から彼女を愛することができない


病室の白いベッド

何らかの汚れが染みついた壁紙

パイプの継ぎ目に覗く錆

日当たりがいいとは言えないその部屋で

点滴や複雑な動きをする機械が彼女に繋がれているとして

私はそのわずかに温もりの残る手を握ることができるのだろうか

その時、あなたに声を、かけることができるのだろうか


携帯電話を手に取る

受話器のマークを押すだけで電話がかかる

たったそれだけの動作に

時間をとられる夏の夕暮れ

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