自称右翼のほのぼの学園生活記

リヨウ

はじめに

プロローグ


 「天皇陛下!!バンザアァァァアアアァァァァィィ!!!!」


僕は夢の中で叫んだ。よく憶えていないが、多分、一兵卒いっぺいそつになって突撃する夢でも見ていたのだろう。そう、夢の中で叫んだはずだったのだ。が――――



 直後、全方位から冷たい目線が向けられた。クラス生徒38人+教師1人、更には教室後方に座っていたお偉方6人の、計45人から。全てを理解した。

 かつて見た熱田アッツ島のドキュメンタリー番組を思い出す。深い雪に覆われた島で米陸軍に包囲された日本の守備隊と自分は今まさに、同じ場所に立っていた。教師の唖然とした顔。そして、背後のお偉方。

 彼らは「研究授業」とかいう謎の目的で学園の上層部から派遣されてきたやつら。らしい。そしてその無言の重圧は、後ろを振り返らずとも感じ取る事ができた。

 頭の中で、米兵の恐ろしいまなこが思い出される。とにかく恐怖だった。


 刹那せつなの沈黙の後、教師は落としたチョークの破片から使えそうな部位を手に取り板書に戻る。(あ、あれぇ~…… ) 僕は内心、驚いた。彼は小岩という日本史教師なのだが、授業中の悪事は絶対に許さない。更にバリバリの日教組。絶対に殺されると覚悟していたのだが……

 多分、お偉方の前で恫喝するのは流石に気が引けたのだろう。そこから先は思い出せない。とにかく怖かったという事だけ憶えている。



 授業後、いつの間にやら普段の五倍くらい綺麗に取ったノートを見つめながら、僕は何とか心を落ち着かせた。


「よぉ鷹野たかの!災難だったなぁ~」


 教師が消えた途端に、一人、親しい友人が駆け寄ってくる。今となってはネトゲにどっぷりはまった身の僕だが、リア友は結構いる方だ。

 こいつは遠藤大地えんどうだいち。数少ないミリオタ仲間の一人。それと、鷹野ってのは僕の苗字だ。由来とかは知らん。何で鷹野なんだろ?


「どやされずに済んでよかったな!呼び出しとかもなかったし」

「そりゃ、お偉方の前で怒鳴ったりはできないだろ。あいつだって只の一教師に過ぎないんだ」


「それもそっか。ところで、昨日初飛行した新型戦闘機だけどよ、計画よりかなり速度でたっぽいぜ」


 へえ、昨日初飛行だったのか。僕は現代兵器の情報を漁ったりしないから、最新の戦闘機を好む遠藤からの情報は聞いていて新鮮だったりする。


「ふーん。どんくらいだ」

「兵装全部乗せでA/Bアフターバーナー使って2000km/hだと」

「マジで!?」

超音速巡航スーパークルーズも出来るとさ」

「流石は日本の技術力、ってところだな」

「いやいや、アメリカンの協力あってこそ、だぜ」


 そういやこいつもアメリカかぶれだったな、等と考えつつ、適当に返しておく。


「まあ、そーなのかもなー」

「だろ?アメリカこそ最強なんだって!あーそうそう、他にも面白い情報入ってるぜ。イギリス軍がまたやった」

「お!今度は何をやらかしたんだい?前は空母が水漏れしたよな」

「聞いて驚くなよ?なんと……」


    …………




 他愛無い会話が続く。今日も僕らの国は平和です。

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