第35話 思い出の残り香
うとうとしていた助手席の少女が顔をあげた。ハイウェイで拾った少女は、疲れた顔で故郷の街まで乗せてと言った。
「どうかした?」
「……姉さんの残り香が」
車中で香る訳もなし、夢か気のせいだと思うが頷く。あり得ない気配や音を聴き眠れぬ夜を過ごした覚えはあった。
「どんな姉さんなの」
「私の好きな人を奪った、優しい人」
なるほど、彼女のすれた瞳の意味を知る。エールを送りたくなり、ポケットからダイスを出した。
「あげる。出た目の色と数の分、いいことが起こるんだ」
少女は瞬き宝物のように受け取り、震える手でダッシュボードに転がした。淡い黄色の六。
「……私たち昔、レモネードを売ってたの」
残り香を紡ぐように、少女は囁く。
改行・スペース抜き299字
Twitter300字ss企画 第七十九回 お題「残る」
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