2020年

第17話 やさしさに包まれたなら

 母は、およそ包むということが苦手な人だった。

 キャラメル包みも下手なので、斜めから始めるデパート包みなどもっての他。弁当箱を包むのすら、左右のバランスが取れていなかった。

 そんな母が恥ずかしく、疎ましく、分かりやすく私は反発した。けれどどうしてか、誰かに物を渡す時、私は人より上手にそれを包めた。


「良かった。起きて良かった」

 ベッドの横で、母が泣く。ひどい事故だったんだ、と父の声。私は白い天井を見上げ、全身の感覚を確かめる。

 私の手を母が包んでいる。母の手は私のそれより小さく震えている。私の指先は母の手からこぼれ空をかく。

 相変わらず、包むのが上手くない。

 そう思い私は、母の手をそっと握り返す。


Twitter300字ss企画 第61回 お題「包む」

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