第15話 社会の窓閉め職人の朝は早い

 私は社会の窓を閉める職人。世間に蔓延る開きっぱなしの社会の窓を閉め続けて早十数年。今日も電車で見つけたオープンウィンドウにそっと耳打ち。

「開いてますよ」

 初めて社会の窓を閉めた時はまだ学生だった。あの頃は伝えるのも下手くそで、伝える時に周囲の人にもバレてしまった。あの時の焦り顔、あわてて反対を向いた背中、かろうじて返ってきたどうもという礼。アレがもう一度見たくてこの仕事を続けているところがある。

 けれど同時に苦い思い出も一つ。そんなつもりはなかったけれど、結果的にあの時彼を笑いものにしてしまったことは後悔している。

 だから私は、今日も忍ぶ。これは私とあなただけの秘密。

「窓、開いてますよ」


Twitter300字ss企画 第59回 お題「窓」

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