第40話
山の近くまで来ると険しい表情をしていた2人に声が掛かった。
「直に目的のポイントに到着する」
帽子を被った軍服の男性に2人は静かに頷いた。
その後、山の中腹付近の上空で、ヘリはホバリングして止まる。
すると、ゆっくりと扉が開く。
2人が覚悟を決めたように険しい表情で外を見ていると、帽子を被った男性が声を再び声を掛けてきた。
「君のお父さんからは援護は無用と言われたんだが……」
「はい。無用です」
「……そうか。残念だが、それならば君等に託そう。諸悪の根源を駆逐してくれ!」
そう呟くと彼は一也達に敬礼をする。
すると、周りの軍人達もそれに習うように敬礼をした。
一也と竜次は静かに頷くと、微かな笑みを浮かべ、ヘリ側面の可動式のアームに装備されていた乗降用のロープを掴むと、ゆっくりと地面に降りていった。
そんな2人に、彼等はいつまでも敬礼を続けている。
地上に着地した2人はヘリを見送ると、森の中を歩き始めた。
険しい表情で終始無言を貫いている竜次に、一也が声を掛けた。
「どうした? ずっと黙って緊張してるのか?」
「……いや、そうじゃないけどよ」
竜次は苦虫を噛み潰したような顔でそう呟く。
そんな竜次に一也が更に言葉を続ける。
「なら、もっと肩の力を抜け。そんなんじゃ一瞬で殺られちまうぞ?」
「あんたは平気なのかよ!」
「……平気なわけないだろ? でもな。戦場で生き抜きたいなら無駄な力を抜くことだ。気付いてるか? 今も周りから見張られているしな……」
「……ッ!?」
そう小さく耳打ちした一也の言葉を聞いて竜次が辺りを見渡す。
そこには、一也の言う通りに闇に紛れた複数の蠢く影が森の木々の間を移動していた。
数にして50といったところだろう……。
咄嗟に動こうとした竜次を一也が肩を掴んで止める。
「バカ、今は動くな!」
「なんでだよ! 敵がいるだろ!」
「少し落ち着け! 今のところは向こうに戦闘の意志はない。おそらくは偵察部隊だろうな……」
その一也の言葉に竜次が更に声を荒げて言った。
「ならなおさら潰さないとダメだろうが!」
「……分かった。なら、あいつらを潰せば少しは落ち着けるか?」
「ああ」
一也は竜次の目を見つめ静かに頷いた。
「お前の槍を俺にくれ。俺の刀は狐鈴に預けてある。って言うよりも俺は任意で刀が出せないと言ったほうが良いかもしれないな」
「あんた、だから拳で戦ってるか?」
「いや、あれは俺の趣味だ。武器を使うと俺は強すぎるんでな!」
一也はそう言ってニヤリと笑う。
竜次が落ちている木の枝を拾うとそれが槍の姿に変わる。
その槍を受け取ると、一也は敵の中へと突っ込んでいった。
槍をもう一本作り出すと、その反対側に槍を握り締めた竜次が特攻を仕掛ける。
悪鬼達は突然の彼等の行動に慌てふためいている。
一也は槍を素早く振り回し、15体もの悪鬼をものの数分で片付けていく。
その最中、一也の背後から突如として2体の悪鬼が剣を振り下ろす。
「よくも仲間達を!」
「仲間の仇だ!」
「……ったく」
口元に微笑を浮かべ、持っていた槍の矛先を背後に向けて一気に突き出す。
その矛先が悪鬼の心臓に突き刺さり、その巨体が後ろに傾く。
一也はゆっくりと倒れる悪鬼の体から槍を素早く引き抜くと、その鋭い眼光をもう一体の悪鬼に向ける。
その刹那に持っていた槍が風を切った。その音と同時に地面に悪鬼の振り下ろした大きな剣が地面に突き刺さる。
倒れた悪鬼の巻き起こした砂煙と一緒に、黒い血が上空に向かって吹き上がった。
無傷のまま槍を持っている一也の足下に悪鬼の首が転がる。
それを足で踏みつけると、一也が徐ろに口を開く。
「……つまんねぇーな。お前等……」
そう一也は低い声で呟くと、辺りの悪鬼達に鋭い眼光を飛ばす。
それを見た悪鬼達がその狂気に我先にとその場から逃げようと走り出した。
一也は無表情で逃げる全ての悪鬼を撃破すると、直ぐ様竜次の加勢に向かう。
竜次のところに駆けつけると、竜次は数体の悪鬼に囲まれていた。
――ウオオオオオオオオッ!!
正面の1体が竜次に突進してくる。
「くっそ! このやろぉー!!」
竜次は悪鬼の剣をかわすと、すぐに槍を構え直し、悪鬼目掛けて突き出す。
だが、その攻撃は間一髪でかわされる。
竜次が舌打した直後、悪鬼の大きな腕に吹き飛ばされた。
「うあああああああああッ!」
「――あのバカッ!」
一也は地面を蹴り竜次を空中で受け止めると、地面に着地する。
竜次は目を丸くして声を上げる。
「どうして、あんたの方の敵はどうしたんだよ!?」
「そんなもん、もう終わらせてる。お前も遊んでねぇーでしっかりしろ!」
「分かってる! こ、これからだよ! これから!」
「ふんっ。どうだかな……」
一也は槍を移動している悪鬼に向かって投げる。
その槍は悪鬼の心臓部に突き刺さり、悪鬼はその場に倒れる。
竜次はあんぐりと口を空けて、その光景を見ている。
「ど、どうしてあんなに精確に撃ち抜けるんだ!?」
「……そんなの簡単だろ? 動きを予測し、後は相手のスピードに合わせて投げればいいだけだ」
簡単そうに言った一也に竜次はぽかんとしながら、その顔を見つめている。
2人が話していると悪鬼達が逃げていく。
一也はそれを見てすぐに竜次に槍を出すように指示を出し、直ぐ様槍を投げる。
投げた槍は逃げる悪鬼の心臓を貫き、4体の悪鬼をあっという間に仕留めてみせた。
その正確無比なコントロールに、驚いていた竜次が一也に尋ねる。
「まるで狙撃だ! これは予測するっていうレベルじゃないぞ!? どこでこの技術を身に付けたんよ!」
竜次が驚くのも無理はない。
本来なら正確に敵の一点を撃ち抜くなどという芸当はそう簡単に出来るものでない。
だが、一也の記憶力がそれを可能にさせる。
おそらく、一也には今まで蓄積された記憶から推測される結果が見えているのだろう。
目標までの距離と到達予測時間また風力、力加減といった誤差などの情報の全てを脳に記憶されているデータに依存している。
だからこそ人でありながら、まるで機械のような精確なコントロールが可能になるのだ――。
「これぐらいお前もすぐ出来るようになるさ。さて、遊びはここまでだ。早く敵の本丸に向かうぞ!」
一也はそう言って立ち尽くしている竜次の肩を軽く叩くと、再び走り始める。
槍を手にした2人がところどころ破損し、苔の生えた石段を駆け上がる。
その最中、度重なる敵の襲来を物ともせず、ただGPSの指し示す場所へと向かう。
一也達の後ろを多くの悪鬼達が血眼になって追いかけてくるのを無視しながら先を目指す。
すると目の前に倒壊仕掛けた古びたお堂の中から叫び声が聞こえてきた。
「――鈴っちぃぃぃぃッ!!」
その聞き覚えのある声に、隣にいた竜次に槍を渡しその場を任せると、一也は刹那の速さでお堂の中へ飛び込んだ。
「……なっ、なに……?」
目の前に広がる光景に一也は思わず声を失う。
そこには宙吊りにされた月詠、月夜、珠姫が見えた。その下には縄で手足を縛られた女性達が身を寄せ合っている。
しかし、そこに狐鈴の姿はない……。
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