128.不穏な影?

大量に手に入ったアースリザードやファイアリザードの肉を≪そよかぜ亭≫の調理場の台に並べていく。


その肉を眺めているエナちゃんの口元から気のせいか涎が出ているように見える。


「エナ、口元。」


エリナさんに注意されたエナちゃんは慌てて口元をゴシゴシと拭いている。


「エリナさん、エナさん急なんですが迷宮攻略も終わったので近い内にファルスの街を出るかもしれません。」


「えぇ~そんなぁ~。それじゃ美味しいお肉が食べれなくなっちゃうよ!」


「コラ、エナ!」


自分の欲望に正直なエナちゃんをエリナさんが嗜める。


「はは、良いんですよエリナさん。それだけ喜んで貰えていたってことですから。珍しいお肉をお土産に持って来れるように頑張りますね。」


「もうソラさんには何を言っても無駄ですね。」


アレ、なんでかエリナさんに諦められちゃった。


今ならペンダントも諦めて受け取ってもらえるかも。


「今回はなんとお肉以外のお土産もあるんだよ。」


【将を射んと欲すればまず馬を射よ】だな。


エナちゃんを馬扱いは酷いか・・・。


心の中で謝りながらエナちゃんに守護のペンダントを手渡す


「わぁ、キレイ!コレを貰って良いの!?」


うんうん喜んで貰えて良かった。


「これは危険からエナちゃんを守ってくれるからできれば常に身に着けてを置いてね。」


「ありがとう!ソラさん!」


ピョンピョン飛び回って喜びを表現してくれるエナちゃん。


「ソラさん。それはひょっとして魔道具なんじゃ・・・。」


あ、やっぱり分かりますよね。


「ええ、迷宮で手に入れたちょっとした魔道具です。」


ホントですよ。


俺にとってはちょっとした魔道具ですよ。


「ソラさん。さすがにお肉と違って魔道具は受け取れません。」


エナちゃんの顔が酷いことになっている。


まぁ、エリナさんは断って来ることは分かっていましたよ。


しかし、心配はありませんよエナちゃん。


エリナさんは最後に受け取ってくれます。


お肉を受け取るのを諦めたようにね。


だからエリナさんの言葉は無視です。


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やる気ポイント300獲得しました。

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そうこれは絶対に受け取ってもらうんです。


「心配しなくても大丈夫ですよ。エリナさんの分もきちんとありますから。」


「いえ、ですからそんな高価なものは受け取れませんと。」


アイテムボックスからもう一つ守護のペンダントを取り出す。


「あ、エリナさんもしかして自分でペンダント着けれないんですか?」


「いえ、着けれるれますよ。」


「なら問題ないですね。」


エリナさんに守護のペンダントを手渡す。


「ソラさん。魔道具のような高価な物は頂けないと。」


まだ断るエリナさんだがすでにペンダントを手に取っているのでもう一押しのはずだ。


「コックローチの氾濫のようなことが又あったときに俺がここにいるとは限らないいんです。もしそんなことがあっても大丈夫なようにそして俺が安心して街を出るためにお貸しするんです。お貸しすることも出来ないのなら俺達には必要ない物なので捨てるしかありませんね。」


「・・・・・はぁ、お貸りするだけですからね。」


ふふ、やはりエリナさんも最後には受け取ってくれると思っていましたよ。


「そう、お貸しするだけです。」












ここはソラと何かと深い因縁ができてしまった貴族が滞在しているフォルス貴族街のある屋敷。


屋敷内の執務室から怒号が廊下まで響き渡ってきた。


「失敗しただと!どういうことだ!」


頭はハゲ、体は痩せ細り、不健康そうな顔をした男が机の向こうにいる男にワイングラス投げつけた。


男は全く動くことなく目の前でワイングラスが砕けるのを見つめている。


「仕方ありません。街の英雄が出張ってきたのですから。」


「そんなことは理由にならん!なぜもっと強い人間を雇わなかったのだ!」


男の話は逆に火に油を注いだだけだった。


「絶対に我々との繋がりがバレてはダメだとおっしゃられるので直属の部下は使えなかったのですから無理ですよ。」


「クソォォ!エントレ侯爵をこちらの陣営に加える命令が達成できんではないか!」


「しばらくは大人くしておくのが良いかと。」


しかし痩せた男の怒りはますます大きくなるばかりだ。


「忌々しいヤツめ。コックローチを早々に討伐してくれたお蔭で王家に全くダメージは与えられんし、アントレ侯爵の娘を人質にしてアントレ侯爵に言うことを聞かせるのも失敗した。」


痩せた男がもう一人の男に金貨の入った袋を投げ渡す。


「このままでは腹の虫が収まらん!どんな方法でも良いバレないように英雄を始末しろ。」


金貨の袋を受け取って男は部屋を出ていく。


「確かに依頼を受けました。数日のうちに結果が子爵の耳に入るでしょう。」


「ワシの邪魔をしたらどうなるか思い知らせてやる。」


そしてフォルスの街はいつもと同じように静かに日が暮れ始めた。

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