123.お手てつ~ないで♪♪

「ソラ誰かこの建物に入って来たぞ!」


もしかして他にも人攫いの仲間がいたのか?


少なくとも付近の建物にはそのような気配はなかったんだけどな。


「誰が入って来たのか確認してきますのでここでリーゼ様とアンさんは俺の従魔と一緒に待っていてください。」


俺はみんなを部屋に残して一人で一階の様子を確認するために階段を降りた。


そこには複数の鎧を着た男達が厳しい表情をして立っていた。


おそらくあの鎧姿からしてアントレ侯爵の騎士なのだろう。


「キサマこの建物でいったい何をしている!」


俺に気が付いた一人の騎士が腰の剣に手をかけながら質問してくる。


さすがに切りかかられたら反撃しないわけにはいかない。


そうならないためにも刺激しないように言葉を選びながら質問に答える。


リーゼちゃんのことは一旦落ち着いてからしゃべった方が良いかな。


「俺はソラと申します。」


剣に手をかけた騎士とは別の騎士に反応があった。


「ソラ殿と言いますとこの間のコックローチ討伐で多大な成果をあげたあのソラ殿ですか?」


こういったときは目立つことしていて良かったと思うな。


俺のことを知っているなら話は早い。


「アントレ侯爵から褒美も頂いたのでそのソラで間違いないと思います。」


「それでソラ殿がどうしてこのようなところへ?」


この騎士は落ち着いているのでリーゼちゃんの話を落ち着いて聞いてくれるだろう。


「リーゼ様の侍女アンさんからリーゼ様が一人で外に出られたとの話を聞いて一緒に探しており、つい今しがた保護したところです。」


騎士達から騒めきと安堵の息が聞こえてきた。


「落ち着け!」


俺と話していた騎士が回りの騎士の気を引き締める。


どうやら俺のことを知っているらしい騎士が隊長格のようだ。


「それでお嬢様はどちらに?」


「2階でアンさんと共にお待ち頂いています。」


隊長格の男性が他の騎士に目配せして確認に行かせた。


俺はスッと階段の前を退ける。


「ソラ殿。すみませんが我々はあなたの顔を存じ上げないのでお嬢様を確認するまでしばらくお待ちいただきます。」


「ええ、分かりました。」


きっちり仕事をこなす信頼できる隊長みたいだ。


騎士が2階に上がるとすぐにリーゼちゃんとアンさんそして俺の使い魔達が降りてきた。


「お嬢様ご無事で何よりです!」


隊長格の男性がリーゼちゃんに声をかける。


「皆には心配をかけましたね。騎士の皆さんとソラ様の迅速な行動のお蔭で私は無事です。」


あとは騎士達に護衛を任せれば良いかな。


「騎士の方々がいらっしゃったので我々はここで失礼させて頂きます。」


護衛の騎士がいるのに何時までもお嬢様のお気に入りで街でも有名なギルド員がいるのは仕事がやり辛いだろうからね。


「ソラ様待ってください。今回お助け頂いたお礼をしなければなりませんので一緒に屋敷まで来てください。」


え、こう言うのはアントレ侯爵から呼び出されたら行くものでいきなり俺がアポも無しに行っても良いものなのか?


う~ん、前回と状況が違うから全く分からん。


アンさんを見ると俺を見て頷いている。


隊長格の男性を見て良いのか視線で合図を送ってみる。


「ソラ殿。お嬢様もこう言っていらっしゃいます。それに貴族の令嬢を助けて頂いてそのままお帰ししたら我々がアントレ侯爵から叱責されてしまいます。ぜひ我々と屋敷までご足労願えませんか。」


そこまで言われたら行かないわけにはいかないよな。


そしてこの隊長はやはりできる人だった。


俺の視線だけで欲しい答えをしてくれるとは。


「分かりました。それではお屋敷にお伺いします。」


「それでは一緒に参りましょう。ソラ様。」


するとリーゼちゃんがおっさんの手を持って歩き始めたのだ。


余計なお世話かもしれないけどこの街で英雄って呼ばれてるだけでこんなに懐いちゃってるリーゼちゃんの将来が心配だよ。


しかし、貴族の令嬢が平民の手を取っちゃったりするのは良くないよね?


アンさんはいつも通りニコニコ顔だ。


騎士の方たちは微妙な顔だね。


この様子だとやはり良いことではないらしい。


「リーゼ様。俺はきちんと遅れずついて行きますので大丈夫ですよ。」


あ、りーぜちゃんの顔が曇っちゃったよ。


「やはり、ソラ様の私のことをお許しになってないのですね・・。」


なんでそうなるの!?


「いえ、そんなことはありませんよ。」


リーゼちゃんは晴れやかな笑顔になって


「では問題ありませんね。」


りーぜちゃんは手を離してくれないようだ。


手を振り払うわけにもいかないのでそのまま手を繋いで歩くことになった。


アンさんがまたしてもリーゼちゃんに向けて親指を立てていた。

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