【新人道化師】


「あっ……あっ……あっ……やめてっ……やめて……」


私のウサちゃんが喰われていく。


自慢だった両耳は齧り取られ、残った根元部分が力なく震えている。

次に奴は、大きな釦(ボタン)型の眼球を抉り出し、長い視神経を育ちの悪いガキがスパゲッティを啜る様に吸い出した。


奴は赤い毛糸の様な髪を振り乱しながら、一心不乱にウサちゃんの頭を噛み砕く。何度も、何度も。

まあるくて愛らしかった頭が、今では歯型と穴だらけ。


見たくないのに目を逸らせない。


綿人形の様なのっぺりとした顔に似つかわしくない剥き出しの前歯は、私のウサちゃんの毛と脳漿と血に塗れていた。


「……やめてって……やめてって!!言ってるでしょおおお!?やめなさいよおぉぉぉぉ!!」


神経接続球(バルーン)の中で喚いたって、相手には届かないことくらい分かっている。

今の私は、ただ宙を漂う間抜けな風船だ。私の代わりに抗ってくれるウサちゃんはもういない。ウサちゃんは奴の腹の中だ。


暫くの間、ウサちゃんの肉や臓腑を貪り喰うと『綿人形』は丸い大きな眼をコチラに向けた。


「ひ!?」


ギョロギョロと上下左右を往来する黒眼は、私の収まった神経接続球を一頻り眺め回したあと、ビタリ、と動きを止めた。


ガチ、ガチ、ガチガチガチガチ。

奴の歯の鳴る音、歯の鳴る音、歯の鳴る音。


これは奴の『意思表示』だ。


「やめて……やめてよ、御願いだから、沢山食べたでしょお!?」


ガチガチ、ガチ、ガチ、ガチ。

まるで私の言葉が聞こえていて、それに嘲笑って答えているかの様に、汚れた前歯を鳴らし続ける。


嘘だ、これは悪夢だ。

だって、アレに乗っているのは新人道化師だって……楽勝だっていっ



がぶり。



涙で歪んだ私の視界に、黄ばんだ硬物が突き刺さった。

刹那、破れた神経接続球の隙間から、観客達の熱叫が入り込んできて、それから

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