第13話 嬉しい再会

 クローネスは城に戻るなり、ネリオカネルに無茶を言いつけた。


「――謁見の準備を。かつての仲間たちが来ています。理由は貴方に任せます」

 

わざわざ謁見の間を使用するのは、他の者たちに対する偽装である。クローネスの私的な客となれば、かつての仲間――英雄しかあり得ないからだ。


「どうしても、英雄として迎えてはなりませんか?」

 

ファルスウッドの置かれている状況を考えれば、ネリオカネルの打診はもっともであった。

 三人の英雄の後ろ盾を得られれば、こちらの士気は格段に上り、敵の気勢を削ぐこともできる。


「なりません。これは私の我侭です」

 

現実的な利点よりも、クローネスは感情を優先させた。説得は一切受け付けないと瞳で告げると、


「御意」

 

 ネリオカネルは承諾した。

 こういう素直な対応が、疑問を拭い得なかった。


 ――この男は、本当に王女の存在を疎んでいるのか?

 

 クローネスが注視すると、ネリオカネルは居心地が悪そうに視線を逸らす。無礼ではあるが、隙のない笑顔よりはよほど信用に値する。


「それでは、クローネス様もご準備を――」

 

 取って付けたような礼をして、ネリオカネルは背を向けた。

 すぐさま、彼の手配した侍女がやってきてクローネスの身だしなみを整えていく。

 

 質素な装いからして、〝森の民〟の訪問という形にしたようだ。

 

 即位して以来、〝森の民〟の来訪は枚挙に暇がなかった。

 今まで接点のなかった村までもが王女に――狩猟神の成聖者にお願いをしにやってくる。

 

 恐ろしいことに、彼等はシアを間引いたことに罪の意識を抱いていないのだ。

 それどころか、精霊返しの風習が豊穣神を呼び寄せたと自慢げに語る始末。

 

 ――昔から、そうだ。

 

 〝森の民〟は目先のことしか考えていない。彼等が間引いた子供が、時には大人がどうなったかまでは確かめもしてこなかった。

 自然が大事と語るも、彼等にとっての自然とは、自分たちの生活範囲内にあるものだけなのだろう。

 

 だから、平気で人を間引く。

 捨てられた者たちが、自然を壊す可能性を一切考慮せずに放棄する。

 

 きっと、思ってもいないだろう。

 

 自分たちが切り捨てた民たちが、クロノスを造ったなんて――

 クロノスを通して、下界に触れた〝森の民〟たちは世俗に塗れている。

 少なくとも、クロノスと関係を持っている村には、本当の意味での〝森の民〟は存在しない。

 それなのに、彼等はクロノスの民として生きることを望まない。〝森の民〟を騙るくせして、恥ずかしげもなくクロノスに頼み込む。

 

 ――どうか豊穣神様の奪還にお力添えを、と。

 

 面倒にも、〝森の民〟は豊穣神――シアが人神にたぶらかされたと思い込んでいる。

 その勘違いを放っておいては、いつか強硬手段に出かねないので、どんなに身分が低かろうと、彼等の訪問にはクローネスが出向いていた。

 

 狩猟神の代行者の言葉でなければ、耳も貸さないのだ。

 

 そういったクローネスの心労など露知らず――シアはのほほんと、幸せそうな笑みを浮かべていた。


「久しぶりぃ、ロネ~」

 

 人払いをした(ネリオカネルはいる)謁見の間。クローネスが玉座から下り近づくと、シアはいきなり抱きついてきた。


「えぇ、シアたちも元気そうで安心した」

 

 いくら神の力を宿していようとも、人間という器は脆く、簡単に壊れてしまう。成聖者といえど、所詮は人でしかない。

 中でもシャルルとシアはか弱く、不意打ちや闇討ちを受ければ命を落としかねなかった。


「シャルルは、背が伸びたんじゃない?」

「さっすが、ロネ! 見る目あるっ」

「……伸びたか?」

「ペルイは相変わらず、余計な一言が多いみたいね」

 

 シャルルに脛を蹴られている姿を見て、クローネスは笑った。


「でも、三人とも無事で良かった」

「まったく、大げさだなロネは」

「そうですよぉ~、ペルイさんがいるんだから、大丈夫に決まってるじゃないですかぁ」

「そう……ね」

「おぃ、クローネス。なんだ、今の間は?」

 

 四人は当たり障りのない会話を繰り広げるだけで、誰も核心には触れようとしなかった。

 シアとシャルルはクローネスを慮って。

 ペルイとクローネスは、シアとシャルルの心中を気遣って――

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