§5-2

 学生寮の自室に帰ってきた文楽を出迎えたのはメイド服姿のフェレス――などではなく、先ほどまで一緒に出撃していた二人の訓練生たちだった。


「剣菱、桂城。どうしたんだ、こんなところで」


 留理絵と雅能の姿を認めた文楽は、首を傾げて問いかける。


 私服に着替え、彼の部屋の前でずっと彼の事を待っていたのだろう。


 声を掛けられて、雅能はいきなり文楽の元へと駆け寄って大声を上げた。


「『どうした』じゃないだろ! 愛生、お前心配したんだからな!!」


「いや、心配をかけたのなら謝るが……何のことだ?」


「桂城から聞いたぞ! あのあと機甲人形アーマードールと戦闘になったって! ……しかも、あの〈リヴァイアサン〉と。お前、本当によく生きて帰ってこれたな」


「それはまあ、途中でルーシィ……先生が助けに入ってくれたからだ。それに、桂城の助けもあった。俺が無事だったのはあくまで偶然だ。偶然だぞ?」


「謙遜するなよ! もっと自慢に思っていいことだって、絶対」


 雅能は尊敬の念を眼差しに湛えて文楽を見つめる。背が低く頭がちょうど胸の位置ぐらいにあるせいで、まるで純粋な子供に見つめられているかのようだ。


「いや、凄いと言うなら桂城の方を褒めるべきだ。あいつは他の訓練生と変わらない訓練機で、しかも初めての実戦という状況で冷静かつ的確に事態に対処していた。あれだけの速度で後退射撃を当てるなんて、中々できる芸当ではない」


「あ、愛生君! ちょっとこっちに話ふるのやめて! めっちゃ恥ずいから!!」


 横で話を聞いていた留理絵が、耐えかねた様子で横から口を挟む。恥じらいのない人種かと思っていたが、意外と操縦技術に関して褒められることに弱いようだ。


「初めての実戦っていうならお前だって一緒だろ。ていうか、よく桂城の動きまで見てる余裕あるな! ますます凄いよ、お前!!」


「え、いや。そうなのか?」


 雅能のように昨日今日乗ったばかりの訓練生からしてみれば、文楽が戦場で当たり前のようにやってきた日常動作も、まるで神業のように映ってしまうらしい。


 ごまかそうと思い口を開きかけたが、今は*フォローしてくれる相棒*が居ないのことを思い出して、文楽は押し黙ってただ困った顔を浮かべている。


「ずっと気になってたんだけど……お前、この学校に来る前は何してたんだ?」


「まあまあ、積もる話はとりあえず部屋に上がってからにしましょうよ。ね、愛生君」


「あ、ああ。そうだな……」


 フォローに入ってくれた留理絵の言葉に、文楽は反射的に頷いてしまう。


 部屋に上がることをなし崩しに許可してしまったとは後で気が付いた。


「ところで愛生君。それ、何持ってるの?」


「ああ。これのことか?」


 留理絵に言われて、文楽は手に持っていた黒い球状のものを目線の高さに持ち上げる。


「これは、おはぎという食べ物だ」


「えっと、おはぎは知ってるんだけど……」


「訓練生とはいえ、この状況ではいつ出撃命令が出るとも分からないからな。栄養補給は時間がある内に行っておくべきだ」


「なるほど。食べれる内に食べておくべきってことね」


「……まあ、そんなところだ」


 食べられる内に――これと同じものを食べられることは、またあるのだろうか。


 言葉を反芻しながら、潰れて形の悪くなったおはぎを口の中へと放り込む。


 空いた手で玄関を開き二人を室内に招き入れた。


「おじゃましまーすフェレスちゃんどこ?」


「一言目がそれか……ここには戻っていない。たぶん、格納庫にいると思う」


「なになに? 喧嘩でもしちゃったの? 寝取りに行っちゃってもいい?」


「言っている意味が分からん」


「そうね。そもそも〝寝取られ〟という言葉が性癖を表す単語として一般化され始めたのはインターネットが社会に浸透し始めた頃で……」


「誰が説明しろと言った」


 文楽は呆れ顔を浮かべながらも、ふと感心してしまう。


 初めての実戦を乗り越えてこれだけ平然としていられるとは、神経が太いという一言では済ませられない。数値上での評価以上に優秀な兵士になる素質がありそうだ。


 一方の雅能は、クッションの上に腰を落ち着けて部屋の中を見回している。


「意外に家具とか小物とか、ちゃんと揃えてるんだな。掃除も行き届いてるし」


「俺は何もしていない。フェレスが勝手にやっているだけだ」


「愛生くーん。ところでお茶まだー?」


「茶葉がどこにしまってあるかも俺は知らない。あいつが居ればやってくれるんだが」


「「…………」」


「何だお前らその目は。いいからさっさと用件を言え」


 二人はここに来た目的を思い出し、居住まいを正して文楽に向き直る。


 まず最初に、雅能が微かな緊張を孕んだ声で問いかけた。


「本当なんだよな、愛生? 〈リヴァイアサン〉がお前のこと、死んだマスターだと誤認しているって」


「そ、そう……なのか?」


「私が剣菱君に話しておいたのよ。レヴィアちゃんが君の事をマスターと勘違いして襲いかかってきて、ヤンデレっぷりが超可愛かったって!」


「……なるほど。おかげで手間が省けた」


 留理絵なりに、気を使って根回しをしておいてくれたのだろう。これでもしレヴィアが、他の人間の前で自分のことを「マスター」と呼んだとしても誤魔化すことができる。


 先んじて留理絵を味方と認めて事情を話しておいたのは、やはり正解だったらしい。


「だが、それが一体どうした?」


「だったらさ。その誤認を利用して〈リヴァイアサン〉を上手く誘導できないか? それなら今残ってる戦力でも、何とか有利な状況で対処できるかもしれない」


「言うのは簡単だが、具体的にはどうする」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、雅能はポケットから折りたたんだ地図を取り出すと、机の上に広げて文楽と留理絵の二人に指刺しながら示す


「〈リヴァイアサン〉が逃げていった方向がこっちだろ? エネルギーの補給に利用してるのは、恐らくこの市街地跡のはずだ。それで、襲撃のコースから考えると――」


 雅能は地図上に次々と線や記号を描き込みながら、襲撃の際に予想される具体的な戦術予想、それに対する部隊の詳細な配置、誘導するための詳細なコースまで、あらゆる観点から作戦の概略を組み立てていく。


 地図が書き込まれた線で真っ赤に染まり始めた頃、文楽はふと口を開いた。


「驚いたな、剣菱……授業で習うような戦術論なんて、実戦で役に立つようなものじゃないと思っていたが、そうでもないようだ」


「いや、それについてはオレも同意見だ。座学がどれだけ優秀だとしても、別に実戦で役立つなんて思ってないよ。この作戦も、教科書に書いてあるセオリーをほとんど無視して考えてる」


「……まさか一番成績の良いお前が、そんな身も蓋もないことを言うとはな」


「軍の戦闘記録に目を通しながらずっと思ってたんだよ。授業で教えられる戦術論が通用するとは限らないって。相手が人間じゃない以上、人間を相手にした軍事学の理論もまるで通じない。棍棒で殴り合ってた時代の用兵術とかの方がまだ役立つよ」


「なるほど。実は俺も、以前からそう考えていた。通信技術が使えない今の戦場は近代戦の理論よりもそちらの方が当てはまるという見立ては正しいと思う」


「でも、実際の戦場を経験してみないと、やっぱり分からないことだらけだ。あんなに手が震えるなんて、思ってもみなかった」


 雅能は自信なさげな態度だが、その見識は充分誇るだけのものがある。


 前線で関わってきた指揮官たちと比べても、その見立ては戦場の現実がよく見えている。おそらく操縦士として訓練するのではなく、士官教育を受けるべきだろうと文楽は思った。


 勇猛な獅子の群れも、率いるのが羊であれば羊の群れと同じだ。優秀な指揮官は、優秀な操縦士以上に戦場で必要とされている。


 作戦の概要を聞き終えた文楽は、真剣な表情で雅能に向き直る。


「話は分かった……だが、俺は自分の機体を出せない」


 雅能が答えるより先に留理絵が瞬時に口を挟む。


「どうしたの? フェレスちゃん、調子悪いとか?」


「そんなところだ……桂城、お前の機体に同乗させてもらうことはできるか?」


「まあ、愛生君さえよければ別にいいけど。むしろ、機体だけ任せて、私は降りてた方がいいぐらいじゃない?」


「いや。人形知能デーモンが正常で居られる保証がない以上、お前が手伝ってくれるとありがたい。頼んだのは、実戦で目にしたお前の技量が信頼できると思ったからだ」


「あっ、あのさ愛生君……私だって一応、照れたりとか、するんですけど!?」


「よく分からんが、困らせるようなことを言ったのなら謝る」


 留理絵は赤らんだ頬を手で覆い隠しながら急に顔を背け出す。


 だがお世辞でも何でもなく、彼女の操縦技術が信頼に足るものであるのは事実だ。


 たとえ戦場から遠い後方の基地であっても、才能のある人間達はしっかり能力を磨こうと努力している――その事実に触れられただけでも、この訓練学校に入った甲斐があったと、不意に思い至るのだった。


「でも、基地司令が訓練生の考えた作戦なんて採用してくれると思う?」


「ルーシィ先生に太鼓判を押してもらうしかないだろう。〈ルシフェル〉お墨付きの作戦ともなれば、さすがに基地司令も耳ぐらいは貸すはずだ」


「じゃあそっちは任せるわね。私は格納庫で補助操縦席リアシートの取り付けと、推進器の点検しておくわ」


 文楽と留理絵は手早く打ち合わせを進めていく。彼女に正体を明かしておいたのも、正体を明かす相手に彼女を選んだのも、どちらも正解だったと文楽は得心した。


 ふと会話を遮るように、雅能が慌てて言葉を挟む。


「そ、それじゃあ愛生! 次こそオレも、足手まといにならないように頑張るから――」


「剣菱。お前は、自分も作戦に参加するつもりでいるのか?」


「……どういう意味だよ」


「確かに悪くない作戦だ。だが、お前自身が戦場に出る必要があるわけではない」


「『足手まといになるから出しゃばるな』って、そう言いたいのか?」


「そう受け取ってくれても構わない。だが*基地に予備戦力を残す必要がある*のは、作戦を立案したお前自身が理解しているはずだ」


 雅能が向けてくる威嚇するような目線を、文楽は目を背けず真っ直ぐに見つめ返す。


 勝ち目のある作戦であることは確かだが、基地の全戦力を投入してしまうわけにはいかない。基地を無防備にし、敵に落とされることがあれば、人類全体の存続に関わる。


 失敗が許されない状況であるからといって、失敗した場合について考えることを放棄していいわけではない。


「逆だよ、愛生。自分で考えた作戦だからこそ、責任をもって俺は前に出たい」


「いや、しかし――」


 


――命を捨てるだけが責任の取り方ではない。


 


 口から出かかった言葉を、文楽は寸前のところで深く飲み込んだ。


 自分はどうせ、もう死んでしまったはずの人間だ。そして何より、レヴィアを人類の敵にしてしまった責任がある。


 自分が戦場へ向かうのは、辻褄を合わせるために過ぎない。


 そんな考えの自分が、とてもではないが口にして良い言葉ではない。


 黙って文楽を睨み付けていた雅能は、あまりに意外な言葉をふと口にした。


「愛生。お前、あの〈リヴァイアサン〉の操縦士……〈蛇遣いアスクレピオス〉って、どんな人間か知ってるよな?」


「んぅっ? ええと、それなりには」


 思いも寄らぬ問いかけに、文楽は慌てて変な声を上げてしまう。


 視界の端で留理絵が必死に笑いをこらえているのが目に入ったがなんとか無視した。


 知ってるも何も自分のことだ。それなりどころではない。


 とはいえ、事実を口に出せるはずもないが。


「どうして今、そんな話をするんだ?」


 雅能は恥ずかしそうに顔を赤くしながら、たどたどしい口調で答える。


「実はさ、オレ……憧れてるんだ。その〈蛇遣いアスクレピオス〉って操縦士に――」


「プふー!!」


 突然物凄い勢いで笑いを吹き出したのは、黙って二人の話を聞いていた留理絵だった。


 雅能は真っ赤な顔をして、大爆笑している留理絵に食ってかかる。


「ちょ、おい! 何で笑うんだよ桂城!?」


「だ、だっていきなり衝撃告白するもんだから……ぷふぉっ!」


「だからって笑いすぎだろお前!!」


 本人は全く気付いていないが、雅能は「あなたに憧れています」と面と向かって告白したようなものだ。その事実を知っている留理絵に、笑うなと言っても無理がある。


 雅能は自分の真摯な憧れを馬鹿にされたと取ったのか、次第に声を小さくして顔を伏せてしまう。


「くそっ、夢見すぎだってバカにしてるんだな……」


「いや、真に受けるな剣菱。あいつが笑ってるのは、多分そういうことじゃない」


「別にいいよ愛生。お前だって、同じように思ってるんだろ?」


「いや、そんなことは……」


「分かってるよ。分かってるさ。自分でも、身の程知らずな夢だってことぐらい」


 雅能は肩を落として、ズボンの裾をぐっと握り締めながら悔しそうに言葉を続ける。


「オレが訓練学校に入ったのも、あの人みたいになりたかったからだ……けど、憧れだけじゃ、やっぱりどうにもならなかった。お前に手が震えてるって指摘されたとき、気付いたんだ。オレは、そんな風になれる器じゃないんだって」


 〝英雄〟というのは死んだ人間の方が都合が良い――隊長の言った言葉の意味を、文楽は苦々しい思いと共に、今更になって噛み締めていた。


 後方の訓練学校に芽吹く若い芽。その種を蒔いてしまったのは、他ならぬ〝英雄〟と呼ばれた自分自身だった。


 だから、その責任は自分の手で取らなければならない。


「――雅能。俺はその〈蛇遣いアスクレピオス〉という男を、大した操縦士だとは思っていない」


「な、なんだと!? 人類の為に身を挺して戦った英雄なんだぞ! それを大したことないだなんて、お前何様のつもりだ!!」


「ぷふーっ!!」


「なんでますます笑いが大きくなってんだよ、桂城!!」


 腹を抱えて机を叩きながら笑い転げている留理絵を無視して、文楽はゆっくりと続ける。


「機体をゲーティアに奪われ、自分も戦いの中で消えることしかできなかった。所詮は、それだけの男だ。お前も同じように、戦いの中で死ねれば満足だというつもりか?」


「……だから、憧れるのは間違いだって言うのか?」


「そんなことまでは言ってない。憧れるのはお前の勝手だ」


「だったら、一体オレにどうしろって言うんだよ!?」


 今にも泣き叫ばんばかりの雅能に、文楽は静かな声で答える。


「剣菱、お前は〈蛇遣いアスクレピオス〉を*超える英雄になりたい*と言うべきだ」


「オレが、〈蛇遣いアスクレピオス〉を超える……?」


「それなら俺は、お前の夢を笑ったりはしない」


 雅能がはたと息を飲む音だけが、静かな室内に響き渡った。


 あれだけ笑い転げていた留理絵も、ただ無言で文楽の真剣な表情を見つめている。


「ありがとう、愛生。そんな風に言ってくれて……」


「いや。礼を言われるようなことを言ったつもりはない」


「でも、今まで誰に話しても、そんなの夢見すぎだって笑われるばっかりで……そんな風に真剣に受け取ってくれたの、お前が初めてだ」


 雅能の瞳は表面張力ギリギリまで注がれたコップの水面みたいに潤んでいる。ほんの少し揺らしただけで、今にも溢れ出るものがこぼれ落ちてしまいそうだ。


 雅能は服の袖で一度目の辺りを拭うと、手をそのまま文楽の方へ差し出す。


「そ、そのさ……オレの事、名前で呼んでくれてもいいよ。その代わり俺も、お前のこと、名前で呼ぶからさ」


「別に構わないが、どうしてそんな必要があるんだ」


「そ、それぐらい察しろよお前!! 友だちってそういうもんだろ!!」


「なるほど、済まない。俺には友人というものが今まで居なかったからな。理解が及ばなかった」


「いや、オレも今まで友達とか居たことないから、そういうもんだと思ってるだけなんだけど……」


「分からないなら、身をもって学べばいい」


 文楽は柔らかい言葉と共に自分の手を伸ばす。


 だが彼の手を握り返したのは、横から獲物をかっ攫うように手を伸ばした留理絵だった。


「じゃあ私も、愛生君のこと名前で呼ぶことにしよーっと。よろしくね、文楽君」


「なんでお前が横取りしてくるんだよ!」


「いいじゃん。友だちの友だちなら私たちだって友だちでしょ、まさのん?」


「〝まさのん〟って何だよ!! そもそもお前、いつの間に愛生とそんな仲良くなってたんだ?」


「あっれー? まさのん、文楽君のこと名前で呼ぶんじゃなかったのー?」


「そ、それはその、順序ってものが……!!」


 顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた雅能は、ふと蒸気が抜けるように大きなため息を吐き出した。


「くっそぉ……お前も、相当変なやつだよな。教室では模範生みたいなふりしといて」


「知ってたまさのん? 普通じゃない人間しか優秀な操縦士にはなれないのよ?」


「バカな嘘はやめろよ桂城。オレは騙されないからな」


「えー。でも、文楽君も前にそう言ってたわよ」


「本当か、文楽!?」


「雅能、アホの嘘に騙されるな。留理絵も人の言葉を勝手に曲解するんじゃない」


 文楽が前線に居た頃にも、当然部隊には多くの仲間が居た。同じ人類として戦う人間、人類の為に力を貸してくれる人形たち。彼らのことを戦友と呼ぶことに抵抗はない。


 だが、ただ同じクラスになったというだけの人間を〝友〟と呼ぶことに対しては、抵抗でも違和感でもない、どこかくすぐったい感覚を覚えてしまう。


 留理絵に片方の手を握られながら、もう一方の手で雅能の差し出した手を文楽は握る。


 決意に満ちた表情で、握り合う手をじっと見つめながら雅能が口を開いた。


「このまま〈リヴァイアサン〉を野放しにしておけば、〈蛇遣いアスクレピオス〉との名を汚すことになる。オレには、それが許せない」


「悪くない。責任感で戦うよりも、きっとその方がいい」


 死せる英雄ではなく、愛生文楽という一人の訓練生として――そして友人として、文楽は雅能の手を握り締めながら言う。


「……お前の思いを守る為に、俺も力になる」


 留理絵は握っていた手を放し、堅く手を握り合っている文楽と雅能の手の上に、自分の手を覆い被せるようにしてそっと置く。


「じゃ、私も協力するわね……ぷぷっ」


「だから何でお前はさっきから笑い堪えてるんだ!!」


「だって、まさのんがさっきから言ってるのって……ぷっふー!!」


「くそ、もういい! お前はこの手放せよ!!」


 雅能と留理絵は空いた片手を使ってお互いの頬をつねり合い始める。


 ただ理由もなく、三人はいつまでも互いに重ね合った手を放さないままでいた。

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