第25話 どうも犬君です。雷が落ちたような衝撃です。
今の季節は何でしょう、はい、春です。そろそろ桜を見る宴があってもおかしくありません。
事実桐壺帝がそれを計画しております。あちこちの雅な方々を呼び集めています。
それもあって内裏は人の出入りが激しく、ちょっと犬君が男装して歩いても気付かれないのですが……
「あれからどうなったんだい」
蛍帥宮様が、私を心配して来てくれたのです。末摘花様と入れ違いであの現場に入った蛍帥宮様に、そちらはどうだったのか聞くと。
「義姉上が非常に怒り狂っておられたよ、責任も取れない女の人に手を出した兄上にたいして、烈火のごとく。兄上がうっとうし気にそれを聞いていて、これからまた何かあるんじゃないかとはらはらしているんだ」
おい屑、反省しろよ! 何でそこで反省しない、反省と言う意識が出てこない! 生霊呼び寄せてしまっても自分が悪くないと胸を張る人種か貴様! ……人種でしたね。
葵上さまが色々厳しい事を言うから、左大臣のお宅以外に滅多にいかなくとも……後見の相手の機嫌を損ねてはいけないと知っていても……奴は自分の身の上をちゃんと理解しなさそうです。
「そうだ、不思議な男性が狼童を探していたよ。坂東の男の様だったが、教えてもいいのだろうか」
ぎくりとしました。まさか巌丸がそんなに鼻が利くとは。野生の勘ですか。あっという間に蛍帥宮まで行きつくって何ですか。
とはいえ、落ち着いた声で返します。
「教えないでください。自分の力で見つけ出すと言ってましたし」
「接点でもあったのかい」
「まあ色々ありまして……ちょっと話をしただけですよ」
オブラートに包みます。オブラートは大事です。蛍帥宮様も詳しく突っ込まないでくれたので、ほっとしました。
流石に言えませんよ、求婚されています、見つけたら何かありますとは。
蛍帥宮様だってはるかに前ですが、求愛の手紙を送ってくれた人でもありますし、あまりそう言った事を言うのははばかられます。
「彼は今度の桜の宴で警護の一人として出るらしい。腕は確かなようだ。警護の者たちもそれなりに慕っているそうだ」
求心力なのか掌握術なのか知りませんが、巌丸半端じゃありませんね!
それだけカリスマがあるんですかね、と思いながらも、口に出す馬鹿はしません。
「桜の宴に、どちらの方々が出るのか存じていますか」
「弘徽殿のお方がとても乗り気だそうだよ、これを機会に姪と朱雀君を接触させようとしているそうだ」
フラグが立っているのは気のせいでしょうか。そういえば……犬君は記憶をあさります。たしか姪は朧月夜様……桜……夜桜……!
記憶が照合されました。
朧月夜様は、月見の宴だった桜の宴だったかが終わった後、一人朧月夜に勝るものはないと一人歌いながら歩いていて……屑に狙われて関係を持つ事になってしまった女性です。
屑の外側しか知らなかったために、屑にあこがれ恋をして、いけないとわかっていながら密会を重ね、入内ぎりぎりにそれが露見するという役回り。
彼女も大変不幸な身の上です! 入内したあとそれらを知られて苦しんで、でも朱雀帝が優しいので、この人を裏切れないと思いながらも、屑に言い寄られて好きだった心に振り回され、また関係し、と屑に翻弄される大変な身の上です。
もしやこの桜の宴こそ、朧月夜様が危険な目に合うという事では?
大変です、屑の下半身の被害者を増やしてはいけません!
犬君は立ち上がりました。
「蛍帥宮様、桜の宴は、藤壺様もご覧になりますか」
「ああ、ご覧になると聞いているよ。そこで髭黒殿と若紫様を出会わせるとのことだ」
姫様はその事をご存じなのでしょうか。ぴたっと黙った私に、彼が言います。
「運命的な出会いを演出するために、話すだけにしようと計画しておられるようだよ」
ナンダッテ!
事実は急いで確認するべきです。私は即座に藤壺様に聞く事にしました。
「姫様を髭黒中将殿とお見合いさせるとは真でしょうか姫様のご意見を聞いていただきたいと言う犬君の意見は反映していただけなかったのでしょうかお答えいただけますか藤壺様場合によってはこの犬君応援できない場合がございますし姫様に秘密の計画を教えなければならないのですが」
「い、犬君、落ち着いてちょうだいな……顔が怖いわ、声も息継ぎなしでそこまで言わないでちょうだい」
藤壺様が犬君に言います。馬でもなだめるつもりでしょうか、あいにくなだめられる気質ではありません。
「帝のご要望なのよ。帝は桐壺様と運命的な出会いをしたそうだから、姫にも運命を感じる出会いをしてもらいたいと願って」
「姫様は本決まりになった際に苦しむ事になりませんか?」
「理想の男性の事を言うと、いつも、『大事にしてくれて、ないがしろにしなくて、お互いに意見を言い合える仲のいい夫婦になれる方がいいわ』というばかりで……あの子は男女関係に対してなかなか成長してくれないの。でも年齢が年齢という事もあるでしょう?」
藤壺様がこっそりと言います。
「ちょうどあのくらいなの、私が光君と出会って親しくしていた年頃が……あの子は入内したくらいの私にそっくりで」
後宮から出すべき、早々に夫の家に迎えられるべき、と藤壺様は考えたようですね、この空気だと。
確かに髭黒殿は、宮仕えする玉鬘が冷泉帝の怪しい視線を受けていると感じた際に、急いで宮仕えを止めさせて、間違いが起こらないように彼女を守った直観力もいい男性でした。
そう言った意味でも守り切れそうだと、藤壺様が判断したという事でしょう。
そして私にとっても盲点でした。
そう。
「あの方が出会って見つめ続けていた年頃と、今の姫様の年齢が近いなんて……」
雷が落ちたような衝撃を受けています。
ロリコン過ぎじゃねえか! あの下半身屑!
原作では、若紫が美しくなっていたという風に書かれていましたが、確かに、年齢を計算すればそうなるんですよ。盲点でした。
屑が恋に落ちた藤壺様の年齢は、今の姫様くらいなのです。
マザコンこじらせた初恋の相手そっくりな、美少女。
危険しかないワードですね! 犬君は姫様も朧月夜様も守らなければならないなんて! 分身の術が出来ればいいのに!
さらに末摘花様の様子も知りたいですし……私みっちり計画立てなければ、誰も守れませんね。
「犬君、あなただけが頼りよ、若紫をお願いします。ほかの女房だと、光の君でもいいと言いかねなくて」
「分かっております。あのお方から姫様をがっちり守らせていただきます」
まずは姫様、次に朧月夜様。末摘花様。
色々知っていても、姫様を第一に守るのが、犬君が自分で決めた順番なのです!
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