第8話 どうも奴(Gではない)と対決です、犬君です。

結局私がロリコンと結婚することは、帝の決定により却下されませんでした。

くそ……ロリコンと結婚なんて……浮気野郎と結婚なんて……いくら女の子に生まれ変わった身の上とは言いますが、こんなの認められません。

しかし姫様の元を離れて、よからぬロリコンが姫様に魔の手を伸ばすかと思うと、一人逃げられないのですよ。

くっそいまいましいですね!

そして帝が楽しそうに、私の裳着の事を進めていきます。裳着の儀式の時に、裳を結ぶ男性を選んでおります。結構な権力者に頼むようです。その人は私を養女にするのでしょうか。

光源氏との縁がほしい貴族っていくらでもいますからね、ありえます。

何しろ時の帝の、最愛の息子なんですから。

しかしグダグダしていたらなんと……帝直々と言うことになっておりました。もう何も言えません。

そしていくつもの成人の儀式を済ませた私は今、藤壷でロリコンがやってくるのを待つことになってました。

こうなったら体なんて絶対に許してやるものですか。絶許な野郎なんですからね。

と心に決めて、片手に鏡を持って一人、座り込んでいると。

「物々しい様子だね」

物音とともに、ロリコンが現れました。

ちなみにまだ、御簾越しです。

間違いのおきようがない距離でーす。

「望まない物が多すぎますので」

私は冷ややかに言います。葵の上も真っ青な冷ややかさを演出したつもりです。葵の上は年上ということもあり、ロリコンに甘えられないお方でしたから。

彼女とロリコンが平和にくっついていれば、私もロリコンを多少は安心してみていられたのですが。

物語はそうではおもしろくないのでしょう。

ロリコンに、義母との関係とか、誘拐とかをさせてます。

「私を望まない女性なんて、あなたが初めてだ」

「ご自分の振るまいをよく考えたらどうです? 女性にも心があります。あなた方のようにふらふらふらふら出来ない身の上。一人夫を待つ女性の孤独な気持ちや不安な気持ちなど、あなたは考えもつかないのでしょう」

ロリコンが息をのんでいます。思ったこともないのでしょう。一人しかいない男を待つ女性の気持ちなんて。

まあ、男がブッキングするくらいに、男を通わせるやり手もいらっしゃいますが。

蜻蛉日記などでも、夫がよそに女を作ったことで苦しむ心中がかかれていますし。

「女は理想の男性など探しにいけないのに、男は勝手すぎますよね。理想の女性ではなかったといって、女と交わしたちぎりを一夜の遊びといって栄誉のように言って。あなたの母君がどうして亡くなったのかも、あなたは存じていないのですか? 知っていて、恨みを増やす所行をなさっているのならばなんてあなたは、地獄に堕ちやすいお方なのでしょうね」

光源氏に想像力があれば、女をとっかえひっかえして恨みを買うことくらい判っただろう。

母親である桐壷の更衣が、たくさんの奥さんを持っている人の寵愛を一身に受けた結果、亡くなったと理解していれば、同じような振る舞いは避けるはずだ、と思うのは気のせいでしょうかね。

私が言い続けると、彼は青ざめております。

いい気味です。こんな子供のような女に言い負かされるなんて。

「浮気ばかりする男に、強引にちぎりを結ばれた女性は、その男が次々女のところに通うために、それは激しい苦しみと嫉妬に駆られるんですよ。私は蛙や長虫からそういった女性の話を聞いたんで知ってるだけですけどね」

私はどんどん、ロリコンに後悔をさせるために続ける。

「呪いになるほど、女性の心は重いんですよ。あなた、それに耐えきれる自信があって、浮き名を流していらっしゃいますか?」

それとも。

「ちぎりを交わした女性に不幸が訪れるのも、あなたとちぎった運命と相手側の問題にしますか? どちらでもあなたは女性にとって最低の男となりますね。いくら男同士のあいだで好き者がよいと言われていても。女性は一人だけ愛してほしいものなのですよ。だから」

私は顔を上げて言い切った。

「私を手に入れるならば。ほかの女性すべてと円満に縁を切ってから現れていただけますか? 奥様の計らいで見事に仕上がった姿を見せていらっしゃるようですが、あなた一人ですべてやって、奥様の仕事の大変さを知りなさい」

できっこないと思って、私はきっぱりそういった。あんたに出来るわけがない。

平安時代のあり方で、私の言っていることが出来る男なんて、上流階級になるほど、いないのだから。

「私は御簾の中に、あなたを入れたりしませんよ。入ろうとしたならば、香炉の一つや二つ、投げつけてもかまいませんの」

「帝の計らいで私と結婚するのに、あなたは帝に逆らうつもりなのですか」

「あの現場にいて、私がどれだけこの結婚を嫌がっていたのか見えなかったのですかね。あなたの目は節穴ですか。帝に逆らうのではなく、あなたと一対一で、一人の男と一人の女として話しているのです。あなたに事実だけを突きつけているのです」

私の方から、相手はよく見える。

でもロリコンから私は見えない、御簾ってそういう物なんです。

暫し黙ったロリコンに、私は続けた。

「それとも。私を踏み台に、ほかの誰かを手に入れる算段なのですかね。それでしたら、大変。あなたに鈴でもつけなければなりませんね」

真面目に言った私ですが。

それを聞いたロリコンがふいに吹き出したのだ。

「あなたはとても不思議な女性だ。今までであった誰よりも鮮烈な印象を残すというのに、不思議と不快感がない方でもあるようだ」

「物珍しいだけですよ。あなたのような身の上の男に、これだけ言うような浅慮な女性がいないと言うだけです」

私が言い切ると、ロリコンはしばらくそこにいた。

私は獣時代に培った、体も頭も休めるけれど、動きがあったら目覚める程度という状態で休息し、一夜が開けました。

ロリコンのやつ、境界線の向こうで夜を明かしたようですね。そこにいるんですから。

しつこい男ですね。まったく。

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