ep8-3
「んんっ……気持ち良い……」
ソニアが顔を赤らめてため息をつく。
「あぁ、いい具合です。あったかいですわ」
ツガルが恍惚の笑みを浮かべる。
「「極楽~~」」
2人は湯船に並んで浸かっていた。
「それにしてもソニア、貴方は本当に女の子らしくなりましたわね」
「それは……わたくしだって、元の貴方に少しでも近づける様に気をつけていますもの。確かに元は男でしたから、少し気恥ずかしいとは思いますけれど……大切なソニアがひどいガサツな女だと思われたくはないですもの」
ソニアは大切なものに触れるようになだらかな胸に手を当てて自分に言い聞かせる。
ソニアにとって今の体は大切な借り物だ。だからこそ、ソニアという人物のイメージを崩させないように気を遣っているということだ。
「そういう貴方はいつまでも元の口調のままですのね、ツガル。王宮騎士の中に女口調の者がいると噂になったらどうするのですか?」
ソニアは唇を尖らせて抗議する。が、対するツガルはどこか寂し気である。
「……? どうしたのです、ツガル」
ツガルの様子がおかしいことに敏感に気付いたソニアが問い質すと、ツガルは観念して思いを打ち明けた。
「ソニアは、元の体に戻りたいですか? 今の貴方は女の子らしくて、正直、元のわたくしよりも可愛いげがあると思うのですが」
「どういうこと?」
「貴方が知らない、可愛げのないソニアもいたということです。あなたがずっとソニアでいてくれた方が良いのではないかと思います」
「つまり、元に戻ったら可愛げのないソニアになってしまうのが嫌なのね?」
「……まあ、そういうことですわ」
「そっか……」
ソニアはツガルの言わんとすることを察して、それを拒まず受け入れる。
「貴方が元に戻りたくないと言うのなら、仕方ありませんわねぇ。貴方はそうやって、女口調の騎士のままで生きようと言うのね?」
「口調がお嫌でしたら直します。でも、わたくしは……」
ツガルは、恥ずかしそうに口ごもってソニアに向き直る。
「オレは、ソニアには可愛い女の子でいて欲しいんだ!」
ツガルは、内側にこらえた感情を吐き出さないように俯いて堪える。
そんなツガルを愛しく思い、ソニアは湯船の中で立ち上がって、そっとツガルの頭を抱いた。
「いいですよ、ツガル。貴方のために可愛い女の子でいてあげます」
「ん……」
頭を抱かれながらツガルがソニアを見上げると、聖女の様に神々しく後光が差しているように見えた。
「わたくしも、この体が気に入りましたから。貴方が色々と気持ちの良いことを教えてくれましたからね、ツガル……」
激しい煩悩にとらわれてソニアの瞳が焦点を失い、それを表すように背中から光の粒子が溢れていた。
「わたくしをこんな風にした責任をとってくださいね、ツガル……」
「は、はひ……」
ソニアは若干引き気味に怯えるツガルの顔をうっとりと眺めて、そっとキスをした。
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