ep6-11
「そう……ですか」
ツガルにしてみれば東国の先王と言えば父親であるメイルシュトローム国王を度々暗殺に来る厄介者だ。その処遇がどうなるかは興味が薄いところである。
「先王は古の勇者と魔王の宿命に捕らわれた哀しい男だ。勇者と魔王の戦いは伝説ではあるがおとぎ話でもない。私たちの血脈に因縁として流れ続けている。今となっては勇者国と魔王国の外交問題として落とし込まれているが、血を受け継いだ者にしか分からない宿命が感じられるものもあるのだろうね」
マミヤはツガルの目を見て言葉を紡ぐ。ツガルこそが当事者なのだとでも言うかのように。
「先王が魔王を倒すことに執念を燃やす理由……。それは本人に聞いたわけではないから本当の所は定かではないが、私にはわかる気がするよ」
マミヤはメイルシュトローム国に伝わるという古文書『たのしく学べる魔力回路入門』をもてあそびながら溜め息をつく。
「きっと先王は、自分の代で勇者と魔王の因縁を終わらせたかったのだろうね。勇者の血を受け継いでしまった自分の子どもが戦わなくて良いように。
私も同じ気持ちさ。剣術を学び、体を鍛え、敵の技を知り対策を練るために魔力回路を学んでいる。それらはすべて、お兄様が魔王と戦わなくて済むように、私が代わりに魔王を倒したいからなのだよ」
ツガルはマミヤの追及の視線から逃れるように目を伏せた。
勇者の血を継いだこの体に入っているのは、魔王の血を継いだ娘の魂なのだ。単に敵国同士のお姫様と騎士の駆け落ちなどと浮かれていられないほどの多くの人々の因縁が自分の身に降りかかっているのだと感じた。
そんなツガルの様子を見てマミヤは慌てて取り繕う。
「す、すまない。お兄様を責めている訳ではないんだ。ただ、私が勇者の力を継いでいればお兄様の役にも立てたのではないかと……!」
マミヤはそう言うが、それは叶わぬ願いだった。もしマミヤが勇者の力を継いでいれば、今のような関係にはそもそもならなかっただろうから。
しばらく沈黙が続いた。
2人の乾いたカップにオーマが紅茶を注ぐ音が書斎に響いた。
「それで、マミヤ様。わたくしは何を手伝えばよろしいのでしょうか?」
沈黙を打ち破るようにツガルが口を開いた。
その助け船に乗ってマミヤも普段の笑顔を取り戻した。
「あ、ああ! そうだったね。お兄様には絵の具作りを手伝って貰おうかな。宝石を砕くのは意外と重労働でね。私は引き続きこの古文書の解読と魔力回路の作成に取りかかるよ」
マミヤはバケツいっぱいに粗雑に放り込まれた宝石をツガルに渡し、再び床に座り込んだ。
この魔力回路で何をするつもりなのか、それは作業をしながら聞けばいいだろうと、ツガルも宝石を粉にして絵の具を作る作業に取りかかった。
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