第54話偵察は街に戻るまでが偵察です

「よーし。みんな揃ったようだし出発しよう」


 翌朝。僕らはたっぷり睡眠をとると、町の入り口へと集合した。


 そこにはすでに平松パーティーとステラちゃんが来ており、装備の点検や準備運動をしていた。


「平松さん。出発する前に提案なんですけど」


 僕は平松へと近寄っていく。その際に、朝倉と目が合った。彼女は誰にも気付かれないように首を縦に振った。


「うん? どうしたんだい藤堂君」


「今回。調査するのはこの街をそれぞれ東西に行った先にある森でしたよね? 神候補がこれだけ居るんです。手間を省く為に二手に別れませんか?」


「そう? 僕としては敵がいる想定なんで戦力の分散は避けたいんだけど…………」


 普通であるのならその提案は正しい。だが、僕には他に思惑がある。


 もう別に隠す必要は無いのだが、出来るだけ自分達の実力を隠したいのだ。昨晩のステラちゃんの様子は明らかに平松に惚れているように見えた。


 朝倉曰く。「あれは勇樹さんを誘惑する為の演技です」と言っていたのだが。万が一…………いや億が一かもしれないが、このまま一緒に行動してエレーヌやシンシアが平松にNTRされると考えると面白くないからね。


 僕は起こり得るトラブルは事前に回避するたちなのだ。


「そっちの方が人が多いですね。良かったらステラちゃんをこっちに寄越して貰えませんか? 彼女と内の女性陣は友人なので積もる話があるみたいなので」


 悩む平松をよそに僕は平松とステラちゃんを引き剥がしにかかる。

 朝倉には「僕が見極めてみる」と言ってある。


「ステラちゃん。一緒に行こうよっ!」


「楽しい。です」


 天然で誘いをかけるエレーヌにシンシア。彼女達には魔王軍云々の話はしていない。


「私は美月です。歓迎しますね」


 亜理紗は手を差し出すとステラちゃんを引っ張りこっちの仲間にいれてしまう。

 彼女には朝倉の話を伝えてあるのだ。


「そうですね。エレーヌさんとシンシアさん。一緒に行きましょう。ミズキさんも宜しくお願いしますね」


 平松が何か言いたそうな顔をするが、当の本人まで認めてしまったので何も言えない。


 こうして僕らは二手に別れると敵が潜伏しているといわれる森を目指して歩き出した。




 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・



「それでお父さんったら『坊主の奴。いつになったら戻ってくるんだ。折角腕を振るった料理が無駄になっただろ』って寂しそうに空になった鍋をかき混ぜてたんですよ」


 ピクニック気分で歩きながら会話をする。


 現在の話は、僕が旅立った後のシルヴェスタのおっさんの言動だ。

 何でも、僕が恋しくて毎日手の込んだ料理を作って待っているらしいのだが、そういうツンデレは男にやられても嬉しくない。


 僕は背筋が寒くなるのを堪えながら、当分はモカに戻るのをやめようと決める。


「それで。トードーさん。どうして私だけユウキさんのパーティーから引っ張ってきたんですか?」


 いつも通りの笑顔を僕に向けるステラちゃん。まさか疑っているからとは言えない。


「折角久しぶりに会えたんだからね。もっと君の笑顔を長く見ていたかったんだよ」


 とりあえず誤魔化しておくのだが…………。


「むっ」


「むぅっ」


「むうぅぅぅぅ」


 亜理紗が。シンシアが。エレーヌがそれぞれ不気味な声で不満を表す。

 仕方ないだろ。他に思いつかなかったんだから。


「そう言えばトードーさん達ってキリマンに行ってたんですよね? お父さんが「坊主は聖女をモノにして帰ってくるかもな」って言ってましたけど、聖女様ってどうでしたか?」


 そう言えば聖女には出会ってなかった。年の頃は16歳。恐らくはステラちゃんと同い年ぐらいだ。なんでもこの世界の誰にも扱えない聖なる力を扱えるとかで、その聖力は魔王の攻撃を跳ね除ける結界を張るらしい。


 特に用事が無かったので忘れていた。



「どうもこうも。エレーヌ達が来たせいで大変だったんだよ。スタンピードに巻き込まれちゃってさ」


 結果として四天王が現れたので全ての説明はつけられたが、あいつが説明してくれなかったら本気でこの二人がスタンピードを発生させたんだと信じていた。

 僕としては身内がやらかしかねなかったという事実は出来ることなら目を背けたい。


「ああ。四天王が現れて街を襲おうとしたんでしたっけ。流石トードーさん。それにエレーヌさんとシンシアさんも。撃退したんですよね」


「そうそう。大変だったんだよぉ」


「敵じゃなかった。です」


「まあそこそこ強かったけど間抜けな相手だったからね……………………ん?」


 今何かおかしな発言が無かっただろうか?


 明らかにスルーしては不味そうな違和感。僕はその違和感が何かについて考え込んでいると。


「凄いですね。知ってますか? 魔王軍の四天王って魔王が【名】を与えることによって物凄い力を得る事が出来るらしいですよ。そんな相手に三人がかりとはいえ勝つなんて。尊敬します」


 手放しで褒められて僕ら三人はまんざらでもない笑みを浮かべる。やはり気のせいだろう。こんなにも僕らを持ち上げて気持ちよくしてくれるステラちゃんが魔王軍の関係者な訳が無いじゃないか。


 きっと朝倉は平松と仲がよいステラちゃんに嫉妬してあること無いことを言ったに決まっている。後で合流したら「調査の結果問題なし」と報告しておくことにしよう。


 いつの間にか森が近づいてくる。前からなにやら良くない気配が漂ってくる。


「そうそう。魔王軍には四天王の他にも右腕と左腕。そして少し格が落ちるけど六魔将っていう魔族が居るんですよ」


 ステラちゃんは気配に気付いているのかいないのか、調子よく話をしていると目の前に突風が吹き荒れた。


 風がやむとその場には五体の魔族が立っていた。その姿はどれも油断無くこちらを観察しているようであり。


 何かに警戒するかのように睨みつけているようでもあった。

 緊迫感があたりを支配する。


 このままではお互いにお見合い状態が続いてしまうのではないかと僕が危惧していると。

 一人だけ状況を理解できていないのか、ステラちゃんが気軽な声で問いかけてくる。


「四天王を倒せたんだから当然、六魔将も倒せるんですよね?」


 その言葉に目の前の五人の魔族が殺意を高まらせる。どうやら彼らは六魔将で間違いないらしい。


 殺意が渦巻くその中。僕らパーティーは突如現れた六魔将を相手にステラちゃんを庇いながら戦う羽目に陥るのだった。

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