第51話普通にスパに入って美容効果の高いコースを堪能するお話だよ

「シンシアちゃん。お風呂楽しみだねー」


「気持ち良いの。楽しみ」


 目の前を歩く二人を私は微笑ましい目で見つめている。


 エレーヌさんは鼻歌を歌いながらこれから向かう施設に想いを馳せており、シンシアさんは余程楽しみなのか語尾に「です」をつけるのを忘れているぐらい。


「ねえアリサ」


「何ですか? エレーヌさん」


 エレーヌさんが振り返ると私に向かって言いました。


「そこのお風呂って泳げるのかな?」


「さあ? でも国が運営している目玉施設らしいですからかなり広いようですよ。入館料もかなり高額なので混雑はしていないと思うので多分大丈夫かと」


 客の質を落とさない為に入館料だけで金貨10枚。中でそれなりの施設を使おうとすれば更にお金が掛かるらしい。

 それだけの金額が掛かるのだからきっと泳げるような場所もあるはず。


「シンシア。泳げない。です」


「あはは。シンシアちゃんには私が泳ぎ方教えて上げるよ」


 そういうとエレーヌさんは戻ってきて私とシンシアさんの手をとるとスパに向かって歩き出しました。



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「はい。三名様ですね。どちらのコースに致しますか?」


 スパに着くと私はまず受付に向かいました。そこには肌が艶々している受付のお姉さんがいました。


「どんなコースがあるんですか?」


 流石に初めてという事もあって私達には何が違うのか判りません。


「お客様は当設備の利用は初めてでございますか?」


 その問いに私達は一斉に首を縦に振って頷くと。


「それでは当設備の説明をさせて頂きます――」


 そういうとお姉さんは料金表を出して説明を始めてくれました。



☆スペシャルエクスタシーコース…………各地より取り寄せた最高級の品々を使って全身をくまなくメンテナンスします。王族や貴族の方達に人気ですわ。金貨100枚


☆セレブコース…………各コースによりオプションを選ぶ事が出来ます。気になる部分を重点的にケアします。局部を絞りたい婦人に人気がありますわ。金貨50~80枚


☆ノーマルスパコース…………一般的なコース。通常市販されている美用品を使って全身をメンテナンスします。商会の婦人などが結婚式の前などに利用します。大変お安くお得なプランとなっておりますわ。金貨20枚


☆フリーコース…………浴場とプールの施設のみを利用可能です。正直これを選ぶぐらいなら港で泳がれては如何でしょうか?金貨2枚



 最後のコースだけなにやら悪意が聞こえました。それでも金貨2枚って普通に高級な宿に止まれる金額なんですけどね。

 恐らくここに来る人達ってかなりのお金持ちばかりなんでしょう。フリーコースは選んだ時点で酷い扱いになりそうです。


「えっと。二人とも。どのコースにしますか?」


 悩んだ末に私は二人に話を振ってみました。


「私はお風呂とプールがあるならフリーコースでもいいよ」


「シンシアも。です」


 その言葉に受付のお姉さんからのプレッシャーが激しくなりました。振り向かなくても分かります。凝視されてますよね。


「あはは。でも折角のお休みなんだしさ。もう少し良いプランでいいんじゃない?」


 せめてノーマルスパコースを選択させなければ。私はそう考えると。


「でもねー。金貨20枚あれば美味しいお酒飲めると思うんだけど」


「お肉食べれる。です」


 うん。駄目だと思ってましたよ。この二人は割りと欲望に忠実だもんね。


 一応行っておくと私達はかなり裕福です。それと言うのも狩りでドラゴンの肉とかをゲットしたり素材も集めているので売ったお金がかなりあるからです。


 なので、私はさり気なく二人の気が変わるように誘導する事にしました。


「そういえば。直哉君言ってたなー」


 ピクリと二人の耳が動く。

 シンシアさんは魔道具で髪を伸ばして耳を完全に隠しているので見えないけど眼でわかる。


「とっ、トード君が何て?」


「早く言う。です」


 焦る二人見る。完全に釣れたかな。


「『そうか。スパに行くのか。これ以上綺麗になって戻ってくるなんて凄いな。三人が戻ってくるのを楽しみに待ってるからな』」


 完全に捏造ですが、それでも効果はあったはず。


「シンシアちゃん…………」


「……………………。です」


 ここまで来れば後はノーマルスパコースを選択するように誘導するのみ。私が提案をしようとすると。


「「スペシャルエクスタシーコースで!!」」


「はい。かしこまりました。三名様ご案内しまーす」


 止める間もなく最上級のコースに決まりました。直哉君…………どれだけこの二人に愛されてるんですか?




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「アリサ。なんか泡がポコポコしてるよっ!」


「この世界にもジャグジーが…………って魔道具あれば簡単ですよね」


「楽しそう。です」


 二人の目はジャグジーに釘付けです。


『こちらはジャグジー風呂となっております。きめ細かな泡立ちと振動が気持ちよく、ストレスで痛んだ心身を癒してくれます。他にも血行を促進してマッサージと同等の効果を得ることが出来るのです』


 案内の人が説明してくれます。


 私達は促されるままにジャグジーへと入ると。


「んぅっ…………くすぐ…………ったい…………よぉ」


「…………あわあわ。ですぅ」


「ちょっ…………何このお湯っ! んっ…………ぬるぬるしてて…………………んっくぅっ」


 粘性が高いお風呂で泡に擽られると全身がむずむずとします。

 エレーヌさんは敏感なのか目を瞑ると声を漏らさないように必死に耐えていて、シンシアさんは楽しそうにジャグジーを堪能しています。


『そういえば言い忘れておりましたが、スペシャルエクスタシーコースのお客様には媚薬などの材料に使われている【イン蘭】より抽出しましたオイルが投入されています』


 完全にそれのせいじゃないですかっ!


 私はというと何とか沸き起こる快感に負けないように自分を律すると頭の中で円周率を計算し続けるのでした。




 ・ ・


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「アリサ。何かこの部屋暑い」


「花の匂い。落ち着く。です」


 ジャグジーを堪能して身体が火照っ――。温まった私達は次にサウナへと案内されました。


『こちらはスチームサウナとなります。魔道具により温度と湿度が管理されています。ハーブによるリラックス効果と適度な温度が新陳代謝を高めて、肌の老廃物を出してくれます。もし疲れたようでしたら外に備え付けられた休憩所にてお休み戴けます。また、飲み物も各種取り揃えておりますので水分補給は小まめに摂って頂ければ結構です』


「えっ。飲み物も飲めるのっ!? 私お酒がいいな」


「エレーヌさん。まだ昼前ですよっ!」


「エレーヌは中毒。です」


 私とシンシアさんが止めようとした所――。


『申し訳ありませんが、事故を防ぐ為にアルコールの類は扱ってません』

 

 案内の人に断られて残念そうなエレーヌさん。


 それはそうですよね。日本のお風呂だってアルコールの類は販売していません。こういう場所なんだからそういう取り返しがつかない飲み物なんて――。


『なお、アルコールを欲するお客様に代わりに提供しているのが【サキュバスの涙】です』


「へぇー。それ貰おうかな」


 そんなのあるんですね。流石は高級なコース私もそれにしようかな。


『ちなみにこれはサキュバスの涙をグァーバーの果実で割ったジュースなのですが、飲むと身体が熱くなり気持ちよくなります』


「ちょっ! ちょっと待ってエレーヌさん」


「何よアリサ?」


「それやめて普通のジュースにしておきましょうよ」


『ちなみに飲めば今まで感じたことが無いレベルの快感で天国へ行く事が出来ますよ?』


 それ。絶対にやばいやつだから別な事故が起きちゃうからっ! 私は未練を残しているエレーヌさんを強引に説得するとトロピカルジュースを選択した。





 ・



「ねっ。ねえこの部屋薄暗いよ?」


「眠い。です」


 サウナで汗を掻いて水分を補給した私達はマッサージルームへと案内されました。


 マッサージを受けるという事で入室前に館内着を預けたので全裸です。


 …………風呂場ではないので結構恥ずかしい。



『こちらはマッサージルームとなります。フレラシアの花から抽出しましたオイルを撒布しております。効果はリラックスと睡眠に混乱です』


「それっ! バッドステータスですよねっ!」


 耐性があるからなのか、私にはあまり効いてないけど、エレーヌさんとシンシアさんは眠たそうにしている。


『それではマッサージを担当するスタッフを紹介します』


 そう言うと奥の扉が開いてそこからは――。


「ひっ!?」


 思わず悲鳴が漏れた。出てきたのは触手をウネウネとさせながら移動してくる生物だったからだ。


『リンタスの海底都市から取り寄せたミルドラゴラです。触手の先から出る分泌物は催淫効果の外に美容効果があり、触手に身を委ねる事で全身を一度にマッサージをする事が可能となっております。その快感は一度味わってしまえば後には戻る事が出来ないと評判で、当スパに通いすぎて破産した奥様方も居るほどです』


「ちょっ! 出してっ! ここから出してくださいっ!」


 そう言っている間にもウネウネとミルドラゴラは私達に迫ってきます。

 案内人は出すつもりが無いのか、冷めた目で私たちを見ているだけ。


「こっ。こうなったら…………」


 見たところ、人に危害を加えられるような強さは感じない。倒してしまえば――。


 私は拳を振りかぶってミルドラゴラを撃退しようとする。


『ちなみにミルドラゴラを輸入するのに金貨1000枚掛かっています。殺した場合弁償になりますので』


 その言葉に私は拳を収めた。


『さあ。そこの二人のように観念するのです』


 既に取り込まれたのかシンシアさんとエレーヌさんは触手に身体をぐにゃぐにゃと弄られて気持ち良さそうにしている。

 先程までのお風呂の比ではなく、異性の――特に、直哉君には見せられない顔だ。


「やっ。やだっ…………、こっ、来ないで…………」


 万策尽きた私に数匹のミルドラゴラが迫ってくる。じっくりと嬲るように触手を伸ばしてその分泌物を私の顔に――。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 その後、私に何があったのかは正確に覚えていない。ただ、気がつけば館内着を着せられてソファーでぐったりとしているのが覚醒した時の記憶だった。




 ・



「すっごい疲れた…………」


 あれから施設の休息所に移動して私がぐったりとしていると。


「そう? お肌艶々で全身ピカピカだよ?」


「身体中に活力がみなぎる。です」


 元気な二人を私はジロリと見る。そりゃあなた達は深く考える事無くミルドラゴラに取り込まれて催眠状態で快感を得ていたからいいよ。

 私は神候補の称号のせいなのか? バッドステータスの罹りがわるくて睡眠と混乱が今一発動しなかった。


 お陰で触手の催淫効果だけがモロに発揮されて…………酷い目に逢いました。


「えへへ。これでトード君に綺麗な私を見てもらえるね」


「欲情してくるかも。です」


 こんな事ならフリーコースにして置けばよかった。過去の自分の過ちを責めていると――。


「あら? 美月さん?」


「えっ?」


 思いも寄らぬ声で頭を上げるのでした。 

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