第28話神界5日目~平原フィールド~

 ザッザッザ


 草を掻き分けて歩く音が僕の耳に聞こえる。


 ここは神界の転移ゲートからいける草原フィールドだ。

 周囲は見渡しの良い草原でモンスターが近寄ってくれば即座に発見できる。


 もっとも…………。



 僕はもう一度周囲を見渡してみると。

 前後左右に三人ずつ。まるでインペリアルクロスのような布陣で同じ神候補の仲間達が歩いていた。


 何故こうなっているかと言うと、平松の発案だ。


「藤堂君は戦闘能力は無くてもモンスターの能力を見抜くユニークスキルがあるんだ。だったらその力で戦闘時に援護してもらえると助かる」


 そう言ってたのだが、現状では…………。


 周囲の三人ずつは和気藹々とまではいかずとも楽しそうに話をしながら歩いている。

 かくいう僕はと言うと。話し相手なんて存在しないので一人平原を歩いているだけだ。


 これは間接的な虐めなんじゃないだろうか?

 まるで腫れ物に触るような処置。昨日認められたような気がしたのは気のせいだったのだろうか?


「敵襲ーーーーー!!」


 そうこうしているうちに前の方から平松の叫び声が聞こえる。僕はそちらに向かって駆けて行った。



「来てくれたか。藤堂君」


 僕を待ちかねたかのように平松は叫ぶ。

 その後ろでは朝倉が魔法で援護をし、赤崎が矢で他の敵を牽制している。


「藤堂さん。まずは目の前の敵をお願いします」


 朝倉が僕に言う。


固体名:ロックシューターゴーレム


レベル: 74


HP 10000

MP  800

STR 3000

DEX 1000

VIT 8000

INT  300

MND 300


解説:魔石を核に生まれるゴーレム。怪力で敵をなぎ払う。水が弱点。



「固体名は【ロックシューターゴーレム】。レベルは74なんで平松さんの方が上です。怪力でなぎ払ってくる攻撃があるので注意してください。水が弱点です」


 僕は神の瞳による情報を即座に全員に伝える。


「【アイスアロー】」


 赤崎がスキルを唱えると氷の矢が降り注ぎその身体に突き刺さる。


「本当だ。攻撃が通る!」


「水が弱点…………それなら!」


 平松は一端距離をとると、武器をインベントリに放り込み新しく取り出した。


「それは。【アイスブランド】ですね。それなら確かに…………」


 平松が武器を持ち替えて突っ込む。その際に僕は後ろで佇む敵を【バインド】の魔法で縛り上げていく。


 それから暫くすると他のメンバーも集まってきて一気に戦いを終わらせた。



 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


「丁度良いからここらで休憩にしよう」


 全員が集まった事で平松は良いタイミングだと思ったのか休憩を言い出す。


 僕らはそれぞれインベントリからテーブルや椅子などを取り出して平原に陣を取る。


「――敵を退ける結界を――【ホーリーフィールド】」


 朝倉が敵避けの結界を張ることで安心して寛ぐことが出来るようになった。



「それにしてもアイスブランドだすなんて。SPで交換したの?」


 三島が平松に問いかける。


「これ? これはとある貴族の娘さんが誘拐されそうになったのを救ったお礼として貰ったんだよ」


 平松はそう答えると僕が作ったサンドイッチをパクつく。確かに現界にも神界のSPで交換できる武器や防具は多数存在する。

 だからSPはなるべく温存する考えが僕たちの間にも広まっていた。


「神になるためには100万ものSPが必要になる。その上、SPはレベルアップでしか入手できていないからね。無駄には出来ないよ」


 確かに平松の言うとおりである。

 レベルが1上がることにSPが1000貰える訳だが、彼らはまだ平均で70台なのだ。目標に対してほいほい交換することは出来ない。


「それにしたって有料のダンジョンだっけ? クリアしたら5000SPってどうなのかしら?」


 先日まで潜っていた無料ダンジョンとは違い。この神界にはいくつもの有料ダンジョンが存在する。


 そこは担保として1000SP支払う事で利用する事ができる。

 中に入っている間、外界との時間は完全に隔離されており、中でどれだけの時間を過ごそうとも1秒たりとも経過しない。


 そして、ダンジョンに入ると入り口は消えてしまい、脱出するにはかダンジョンをクリアするしかないとの事だ。


 そしてもし仮に死んだ場合。入場前に1000SPを支払っている場合は、完全なる復活を遂げて元の場所に戻ることが出来るのだが、もし担保を支払っていない場合はその魂ごと消滅してしまう。


 そんな訳で、僕らはそのダンジョンに入るかどうかで足踏みをしていた訳だが…………。


「無料のダンジョンですら簡単にはいけないんだ。今僕らが入っても無駄にSPを消費するのがオチだろうね」


 彼らの平均は70台。エクスカリバーでもあれば少しは違うのだろうが、あれは切れ味は良いが、当てなければどうしようもない上、聖属性のモンスターに対しては効果が著しく落ちる。

 アークエンジェルなるレベル200のモンスターが存在しているのを僕は知っているのだが、現時点で遭遇した場合、彼らでは全滅が確定するだろう。


「まあねぇ…………他にも最初にクリアした人間のみに特別報酬があるって言ってたけど」


 平松に諭されても三島は未練がましく言いつらねる。


「それにしたって最大6人まで同時に挑めるんだ。何年か実力をつけていってその時点で最高のメンバーを選出して挑もうよ」


 まあ。命あっての物種だからね。僕はそれほどSPに固執してないからいいんだけど、神へと至りたい彼らにしてみれば目の前にSPが手に入る方法があると無視できないようだ。


「それより、藤堂の【モンスター図鑑】は凄いな。敵の弱点を即座に見破るなんて」


 平松は話の転換を図って僕に話しかけてくる。


「その分相手の事をじっくり観察しないといけないので戦闘面で足手まといになりますけどね」


「何。ユニークスキルはどれもメリットがあるだけでなくデメリットもある。僕の【リミットブレイク】だって一度使うと一日使えないからね」


 こうしてお互いのユニークスキルについて話している。


「でもそんなユニークスキルだとソロじゃ使い道無かったんじゃない?」


「ええ。だから現界では冒険者の人にくっついて行動してました。お金払って同行という形で」


 そう。僕は今、自分のユニークスキルを偽っている。何故なら全員のステータスを確認した上で僕のステータスを看破できるチートが存在しないと解ったからだ。


 基本的に他者のステータスを確認するには本人からの同意がいる。そしてもし見せる場合でも見せたくない項目を伏せる事も可能なのだ。

 だからこそ僕は自分のチートを【モンスター図鑑】と偽った。


 神の瞳の力は万能で、一度使ってしまえばアイテムからモンスター・人間まで全ての対象の情報は筒抜けだ。


 彼らのチートスキルの内容は既に把握してあるしこの中で誰のレベルが高いのかも確認済み。


 ちなみに一番レベルが高いのは相川のLv82だ。そして次は美月の80。

 モンスターとの戦闘における経験値は参加した人間の均等割りなので、ペアで狩っていた分苦労はしたのだろうが、経験値効率は良かったのだろう。


 ちなみに僕は一人だけレベルが突出している。

 初期の装備にニーベルングの指輪を身につけて経験値が50%増し、必要経験値50%減。つまり普通の人の3倍早く成長できる上にソロだもんね。


 今だから知ったけど、ゴールデンタートルは実は経験値の高いモンスターだったらしく、指輪の効果もあって一気にレベルを上げる事ができた。

 その後に戦ったレッドドラゴンも、ダンジョンの最下層に行かなければ遭遇できないモンスターなのだ。


 僕はそれを単独で撃破しているのでレベルの上昇は他者の比ではない。

 もっとも、そのせいでなのか、先日のマリンスフィアも倒したけどレベルは上がっていない。


 恐らくレベルが高すぎてあの程度の雑魚では経験値が足りないのだろう。




 それから暫くして幾つかの連携を確認すると僕らはフィールドから切り上げていった。

 このフィールドに沸くモンスターはそこまで強くないので彼らでも十分狩ることが出来た。


 明日以降はまた二手に分れるらしく、僕は手記を二つ作っておくことにした。

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