光の神の絶望編
第73章 光の声
晒された、いくつもの
宰相一派は、『旧トレドット派の人間による、国家反逆と、その罪人』と、大々的にのたまっているが──援軍に向かったメタリアは滅亡となったものの、敵国の
しかし。
人々の合間をぬい、目的の人物の
彼の深い漆黒の目は、二度と開かれることはない。
優しく、自分の髪を、撫でてくれることもない。
それでも。
「おい! こらッ!」
見張りの兵士の隙をつき、彼女は駆けた。
自分の
彼女は彼の首を、しっかりと抱きしめ、そしてそのまま駆け出した。
首は予想以上に重くてふらつく。
でも、
「この
「ッ!」
パァンッ!
複数の兵士が自分に向け、銃を撃った。
人々の悲鳴と同時、自分の左足が、胸が、熱く痛んだ。
そんな時。
「おい……アレ……」
空が、急に眩く輝いた。
見上げると、眩く輝く、黄金色の機体。
誰もが、目を疑った。
何故なら、
それでも、
あれは。あの機体に、乗っているのは。
「
息も絶え絶えに、彼女は、手を伸ばす。
すると、まばゆい光は、一層に光を強め、周りの人間の目を、眩ませた。
光が消え、人々の目が見えるようになった時。
金色の精霊機も、操者の首も、撃たれて血にまみれた
ただ、地面に広がる赤い染みだけが残され、夢ではないことを物語っていた──。
◆◇◆
「全力前進! ソル! 急いで!」
「コレが最大全速力だ! エンジンが火を噴いて足止め喰らいたくなければ、我慢しろッ!」
自分以上にイライラとしたソルの言葉に、ユーディンはぐっと言葉を呑み込む。
嘘だと思いたい。
それは、誰もが願っていた。
宰相一派の暴走と、チェーザレとムニンの処刑。一報が届いてからのユーディンの行動は、実に早かった。
メタリアの復興支援と防衛のため、婚約したばかりのステラと
「アレイオラの現皇帝には、皇女があと一人おる。が、あの国は女は皇帝になれんし、そもそも彼女は武人じゃない。皇子は
が、絶対という確証が無いため、このあたりは、ユーディンは神に祈るしかない。
(ボクが、祈るなんて、ね……)
帝都に近づくにつれ、空はまだ昼間にも関わらず、何故か夕方のような薄暗さだった。
少し前の事ではあるが、アックスも「わからない」と首を振りつつも、「精霊のバランスが、著しく崩れている」と、渋い顔を浮かべていた。
「陛下! 大変です! 帝都が……」
ドックの艦長から映像が回され、ユーディンはぎょっと目を見開いた。
肉眼で直接見える距離ではまだないが、回されてきた先遣隊による映像に、ソルも困惑する。
「これは……リアルタイムか?」
今いる場所よりもさらに暗い、真っ暗な空。
そんな中、帝都が火に包まれ燃えていた。
「陛下!」
突然、アックスがノックも無しに、部屋に転がり込んできた。
ふかふかの絨毯ではあるが、慌てすぎてひっかかり、勢いよく床で鼻を打つ。が、アックスはお構いなしに、飛び起きて叫ぶ。
「ルクレツィアのねーちゃんがッ! 出撃命令出てないのに飛び出してしもうた!」
「え……」
驚くユーディンの隣、ソルが映像を無言で指さした。
「あそこだ」
ゲートを抜けたのだろう。
猛スピードのハデスヘルが、先遣隊のヴァイオレント・ドールを飛び越え、帝都に向かって、飛んで行った。
◆◇◆
父上が──兄上が……。
騎士といえ一人の人間。混乱しないほうが無理だ。
そして、そんな彼女に、「無理をするな」と、告げる方が、もっと酷だろう。
だから、せめて──彼女の求めに応じ、彼女の為にできるだけサポートをする。そう、ミカは決めた。
『距離2000、
「え……」
ミカの言葉に、ルクレツィアは、ぎょっと、前を見据える。
炎が燃える帝都上空に、
そのうちの一機は、炎によって、赤く照らされた黄金色の機体──。
「兄上ッ! ご無事で……」
『いけません! ルクレツィア様ッ!』
ミカが進行速度を急激に落とした。
機体がガクンと揺れ、思わずルクレツィアが尻餅をつく。
「ミカ! 何を……」
問いかけたが、答えはすぐに分かった。
デウスヘーラーの銃口がこちらに向き、三発の光線が、ハデスに向かって飛んでくる。
光線はあさっての方向に向かって飛んで行ったが、スピードを落とさなければ、三発とも、ハデスに直撃していただろう。
「兄上!」
「控えよ」
静かな、凛とした声が、ハデスに響く。
通信元は、もう一機の、銀色のヴァイオレント・ドールから。
映像に映し出されたのは、赤い髪の、小柄な少年だった。
ギラギラした金の目が印象的だが、その顔には、ルクレツィアには見覚えがある。
「アウイン?」
アウイナイト=ヘリオドール。
十歳になる、モルガとアックスの、弟──。
しかし、ミカは彼に、別の名で呼びかけた。
『ユディト様……いえ、ユディト女王。これは一体、どういうことなのでしょう?』
「ユディト……?」
ユディト……兄の後ろに従っていた、
濃紺の髪に、深い紫の瞳の、あの女性……。
アウインは金の目を細め、クスクスと笑う。
「久しぶりね。その呼ばれ方。良いわ。すごく。悪い気しないし」
その微笑みは、十歳の天真爛漫な少年ではなく、大人の女性の微笑み。
「答えは簡単。イザヤ様には、ちょーっと、荷が重いから」
『こらッ! ユーちゃんッ! ワシを年寄り扱いするでないッ!』
突然、通信に割り込む、もう一人の光の精霊。
気の抜けた呼び方に、ルクレツィア、思わず唖然。
「どう頑張っても、年寄りでしょー。無理しちゃダメよ! お・じ・い・さ・ま!」
『そうではありませんッ! 二人とも! 話をそらさないでくださいましッ!』
二人の調子に、思わずミカが、怒鳴った。
イザヤは『どうどう……』と、両手を上げて、ミカをなだめる。
『そうそう怒るな。アロスターの。こちらにもちと、
せっかくの美人が、台無しじゃぞー! と、イザヤもイザヤで余計な一言を加えるので、ミカを本気でなだめたいのか、実は怒らせたいのか、よくわからない状況に、思わずルクレツィア、脱力。
『ともかく、女王! 何故、光の眷族である貴女が、水の加護を持つアウイナイト様の肉体を乗っ取っているのです!』
「あー。まずそこ? そっち聞いちゃう? しょうがないなぁ」
フフン……と、得意げに
「この子はさ、
……惜しいね。女の子だったら間違いなく、歴代一の
「あげないわよ!」
『いりませんッ! そうではなく、何故、貴女がアウイナイト様の肉体を乗っ取る必要があるのです!』
再度、ミカがユディトに問いなおす。
「んーっとね、ちょーっと複雑な事情というか、意外と、事はシンプルというか……」
『ミカよ。エロハ様がお怒りなのだ。
ルクレツィアは、ある事に気付き、思わず息を飲んだ。
イザヤの奥に、
そして、その手前──イザヤと、繭の、丁度中間。
白銀の鱗に、三対六枚の、淡い黄金の翼──。
丁度、
──しかし。
「あ、兄上……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます