第159話 天使の部屋

クエストの打ち上げも終わり、俺は自分の部屋に戻ってきた──シュラとユキは、打ち上げで騒ぎ疲れたのか早々に就寝する。


俺はマリフィルに夜這いをかける為に寝たフリをしていたがもういいだろう、むくりと起き上がって、シュラとユキを起こさないように部屋をそっと出る。


マリフィルの部屋はニジナの部屋の隣であることはすでに確認済みである。俺は誰にも見られないように寮内を移動した──


うむ、誰にも見られることもなく、マリフィルの部屋の前にこれたぞ。あとはノックするだけだ……と、思っていたのだが……ギギッ……と扉が開く音が響いた。


「何やってるのよ、部屋を間違ってるわよ。誰かに見られないうちに早くこっちに入ってよ」


扉が開いたのはニジナの部屋であった……こいつ、俺が来るのをずっと待ってたのか?

「いや……間違ったわけではなくてな……」

「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら!」

半ば強引に部屋へと連れ込まれる──


ニジナの部屋は白い壁紙に家具も白い色で統一され、一見清潔そうに見える……そう言えばニジナの部屋の中に入るのは初めてだな……


「ちょっと、あまり部屋の中、キョロキョロ見ないでよ」

「見ないでって言われてな、だったらどこを見てればいいのだ」

俺がそう言い返すと、ニジナはちょっと照れたように意味不明の言葉を発する。

「わ……私を見てればいいでしょ……」

まあ、仕方ないので言われたようにニジナを見つめてやった。俺たちはしばらく見つめ合っていたが、ニジナが顔を背けてこう言う。

「そ……そんなに見つめないでよ、恥ずかしいでしょ!」


見るなって言ったり、見ろって言ったりどっちなんだよ──面倒臭い奴だな……


「そんなとこに立ってないで、こっちに座ったら」

まあ、確かにそうだなと思い、ニジナの言うようにベッドに腰掛けた。するとニジナも俺の隣にそっと座る。ちょっと近いのが気になったがそれは指摘しないでやった。


少しの沈黙の時間が過ぎ、意を決したようにニジナが話し始める。

「ジンタと初めて合った時のこと覚えてる?」

「俺がパルミラギルドに入った時だろ、忘れてはいないかもしれない」

「何よ、その意地悪な言い方……私はちゃんと覚えてるよ、ジンタがパルミラに入った時……私もここに入ったばっかりで、今みたいにみんなと打ち解けてなかったし、不安と寂しさで押し潰されそうだった……」

「あれ、そうなのか? そんな感じに見えなかったけどな」

「ジンタが来てから変わったのよ……ジンタが……私とみんなの距離を一気に縮めてくれたの……」


確かに入ったばっかりの時は、ニジナってもっと暗かったかもしれないな……いつも一人で寂しそうにしてたから、俺から声をかけてたような気がする──


「だから私は……」

そこでニジナの言葉が止まる──何かを言う代わりに、ニジナは俺の手を握ってきた……そして俺を悲しい目で見つめて瞳を閉じる……やっぱりこうなるよな……あまり気乗りしないが後でブーブー言われても面倒だ、ここは希望に応えるしかないかな……


そう思ってニジナにキスをしようとしたのだが……妙な視線を感じる……そう思い、扉の方を見ると少し扉が開いているではないか……しかも開いた隙間から人の気配がする。


俺はニジナから離れて扉の方へ近づく……そして勢いよく扉を開いた。

「何やってんだよ、お前ら!」

そこにいたのはキネアやリュカーなどの女性陣たちで合った。

「いや……え〜と、これはその……はははっ……」

苦笑いするキネアに軽蔑の眼差しをくれてやると、ニジナにこう言った。

「悪い、今日は部屋に戻ることにする」


ここはキネアたちを理由に上手く逃げることにする──これならニジナも俺には文句は言わないだろう。

「えっ、ちょっと、ジンタ……」


何か言いたそうだったけど、そのままニジナの部屋を後にする。それにしてもニジナがいつも待ち構えていると思うとマリフィルの部屋に夜這いに行くのも難しくなってきたな……どうしたもんか……まあ、しばらく熱りが冷めるまではこの辺りには近づくないようにするしかないかな──


まあ、マリフィルに夜這いできないのは残念ではあるが、気持ちを切り替えてモンスター闘技会の賞品である雷猫のことを考える。どんなエロいモンスターなんだろうか……やっぱり耳は猫耳なんだろうか……尻尾や毛並みはどんな感じなんだろうか……むふ、楽しみになってきたぞ、これはぜひ優勝して手に入れなければ──









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