第123話 知識都市

メリューカの検問所では、厳重に荷物などを調べられる。メリューカの街の中には、貴重な知識遺産や、文化遺産、重要な歴史的施設など多くあるので、それらに危害や損失を与える者に警戒していた。


「あなたは街に入ることができません」

検問所の衛兵に、はっきりとそう言われたのはジークであった。

「はあ? どう言うことだ、なぜ俺だけ入れねえんだよ」

そう、検問に引っかかったのはジークだけで、他は皆、街へ入ることを許可された。

「あなた、五年前にメリューカにいらっしゃってますよね」

「まあ、何かのクエストで来たような気もするが……」

「その時、重要文化財を二つ、歴史建造物を一つ、破壊したのをお忘れですか──それでメリューカへの出入りを禁止されています」

納得できる理由に、ジークも絶句している。

「ちょっと待て、ならば俺はどこに泊まればいいんだ、外で野宿しろって言うのか」

「まあ、野宿が嫌でしたら、西に1キロほど行った場所に、あなたと同じようにメリューカを締め出された人が集まった集落がありますので、そこの宿屋に行かれてはどうですか」


ジークは仕方ねえなと言って、一人、その集落へと向かおうとする。まあ、自業自得ではあるけど、少し気の毒な感じはする。

「ジーク、情報収拾が終わったら、その集落に向かいにいくから、おとなしくしてるんだぞ」

俺がそう言うと、ジークは仏頂面で手を俺の方に出してきた。

「なんだその手は?」

「滞在費に決まってるだろうが、金がなければ宿も取れん」

「──しょうがないな……いくらくらい必要かな」

「訳ありの裏の街の宿は高えからな、一泊一万ゴルドはするんじゃねえか」

「一万! ちょっと高くないか」

普通の宿なら二千ゴルドもあれば一泊できる──食事や酒を飲んでも五千ゴルドでお釣りがくると思うのだが……

「とりあえずこれで……」

「なんだよ、三万だけかよ」

ジークは不満そうにそう言う。

「三日分もあればいいだろう」

「ふん、まあ、足りなかったら立て替えておく」

その言葉に嫌な予感がしたが、ダメとも言えないのでそれを了承した。


メリューカに入ると、まずは宿の確保をする。ジークの宿泊する裏宿と違い、メリューカには手頃の値段で良質な宿がたくさん存在する。普段から研究者や観光客が多く訪れるので宿の需要が高いことや、そういった人たちへの行政のサービスにより、質と値段が成立しているようだ。


俺たちの泊まる宿は、ニジナとキネアが見た目で選んだ、モダンで清楚な煉瓦造りの宿であった。小綺麗で高級そうな宿なので、もちろん、それ相応の値段がした。

「おいおい……いくら鉱山でそこそこの収入があったからって、こんな高い宿に何泊もできないぞ」

流石の値段に、俺がブツブツと文句を言うが、ニジナもキネアもそれを無視する。勝手にチェックインまでする始末で、強制的にそこに決まった。


部屋だが、女性陣は大部屋の豪華スイートルームになり、男性陣は……といっても俺とロッキンガンの二人なのだが、なぜか従業員が泊まる部屋に格安で宿泊できることになった──


「おい……ジンタ──なぜ、俺たちはこんな狭っ苦しい部屋なんだ」

ロッキンガンが泊まる部屋をみて、真顔で文句を言ってくる。

「それは俺が聞きたい……」

これは女性陣に文句を言いに行かなければいけないようだ……


俺とロッキンガンは、最上階にある女性陣の部屋へと怒鳴り込むことにした──


しかし……

「はい、はい、ちょっと部屋のキー見せてー」

最上階の入り口にいた守衛が、下賤の者でも見る目でそう言ってきた。

「ちゃんと、ここの客だぞ。ほら、部屋の鍵だ」

自分たちの部屋の鍵を見せると、ふっ、と鼻で笑われこう言い放たれた。

「お客さん、それはDランクの客室の鍵だよね……この階にはAランク以上の部屋しかないよ。ちょっと、くる場所間違ってるんじゃないですかね──」

「いや、仲間がここの階の部屋にいるんだ。それに会いに行くだけだぞ」

「はい、はい……そうやってこの階に侵入する輩が後を絶たないんだよね──悪いけど、その仲間と一緒に来てくれるかな」

「だから、もうこの階の部屋にいるんだって!」

「しつこいよあんた! 衛兵を呼ぶよ!」


そうやって、なぜか追い返された俺たちは、仕方なく下のラウンジでニジナたちが降りてくるのを待つことにした──


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