第89話 友の選択
ジンタから、黒いオーラの魔神が友人になったと聞かされた時は、さすがのルキアもその驚きを隠すことができなかった。
「とりあえず、カルナギだっけ。君には感謝するよ。おかげで犠牲が一人も出なかった」
ルキアがそう言葉をかけれたのは、話を聞いて15秒の間をおいてのことである。
カルナギは友の手助けをしただけであり、礼を言われるものでもないと考えていたので、ルキアのその言葉にそれほど興味を見せることもなかった。そもそも今の彼女にとって、興味のあるのは友であるジンタだけであった。
その後、生き残っていた魔物たちを制圧して、イノーマス・パニックを完全に鎮火することができた。これでギルドミッションクリアーである。ミッション終了後は、魔神戦でみんなを危険にさらしたジークがルキアにこっぴどく怒られていた。当然の報いであるが、ジークはやっぱりというか反省はしていないようだ。
現場の後片付けを終わらすと、パルミアギルド一向は、我が家のあるルーディアへと帰路についていた。しかし、街に到着すると、少し問題が発生した。冒険者組合のミルフィネットが少し言いにくい感じでジンタに話しかける。
「ええと、申し訳ないのですがジンタさん。魔神さんとラミアさんたちはルーディアの街に入る事が出来ません。なので野に帰すなり、対応をお願いします」
「なんだと! 貴様! どうしてそんな意地悪を言うんだ! カルナギもラミアたちも大事な仲間だぞ!」
ジンタは思いっきり抗議する。当たり前である。この後、カルナギやラミアたちと色々エロいことをするつもりなのだから、そんな暴挙を許すわけにはいかなかった。
「別に意地悪で言ってるわけじゃありません。テイムも、召喚契約もしていないモンスターを、街に入れることはできない決まりなんです。なんの安全の保証もない魔物が街に入れるわけないじゃないですか」
冒険者組合としては、当然の対応なのだが、ジンタにとっては自分の大事なエロの相手を除外しようとする悪い奴だとミルフィネットのことを認識した。
しかし、ミルフィネットの言葉に少し考えたジンタは、何かを閃いたのかこう言いだした。
「よし、カルナギとラミアたちはこっちに来るんだ」
そう言って彼女たちを自分の周りに集める。そしてボソボソと小声で指示を与えるとこう叫んだ。
「そりゃ! 俺はお前たちをテイムしたぞ!!」
するとカルナギたちは、完全な棒読みでこう言った。
「あーテイムされちゃったー」
それを聞くと、嬉しそうに何度も頷く。
「うむ。テイムも完了したのでみんなで街に入ろう。いやーよかったよかった」
そう言ってジンタは街の検問を通り抜けようとする。あまりの猿芝居に呆然としていたミルフィネットであったが、慌てて止めに入る。
「ダメだって! 何がテイムされちゃったーよ。そんなテイム認めません!」
「貴様! 本人達がテイムされたと言ってるんだからそれでいいではないか! それとも何か、彼女達が嘘を言ってるとでも言うのか。だったら証拠を出せよ証拠を!」
完全にたちの悪いクレイマーになってしまったジンタに、さすがに無理があるとニジナが注意する。
「ジンタ・・それはさすがに無理があるわよ・・あんたテイムがどういうものか理解してるの。あれは一種の精神掌握だから・・テイムスキルの無い冒険者にはどう転んでも出来るもんじゃないのよ」
「なんだと・・テイムとはそんなシステムだったのか・・魔物を口車に乗せて、いい感じにこき使う術かと思ってたぞ・・いやいやそうじゃない! 俺にテイムのスキルが無いなんて誰が決めたんだ! もしかしたら生まれ持った才能であるかもしれんじゃないか」
往生際の悪いジンタはさらに屁理屈を述べる。
そんなみっともない状況を見かねたルキアが、ジンタに助け舟を出す。
「ミルフィネット。彼女達が今回のミッションクリアの功労者であるのは間違いないことだし、冒険者組合の方でその辺はどうにかならないかな」
ミルフィネットは、若くして五次職にまで己を高めたルキアを尊敬している。いや、難解である今回のギルドミッションを堂々と引き受けて、見事成し遂げたことにより、もはやそのレベルは崇拝にまで達している。なのでそんなルキアの言葉を無視することなどできなかった。
「ルキアさんがそう言うのなら・・」
そう言って自分のカバンから何やら書物を引っ張り出して、何とかならないか法の穴を探す。幾つかの書物を確認していると、ミルフィネットの表情が変わる。
「これなら・・・テイムも召喚契約もせずに街に入れるかもしれません」
「おっ。でかしたぞチビメガネ。それはどうやればいいんだ」
ミルフィネットは自分の身体的特徴を呼び名にされて、それを言ったジンタにプチっと切れそうになる。確かに彼女は背が低かった。それは
「ミルフィネット。ジンタが口が悪くてすまない。それでどうすればいいんだい」
さすがルキアさん優しい・・とミルフィネットはルキアに感心しながら、その方法の説明を始めた。
「特殊市民権を得るのです。特殊市民権の取得には、種族や民族の指定がありません。なので法的には魔物であっても取得することができるんです。市民権を得れば、市民として街に入ることができます」
「それだ。その案、採用!」
すぐにジンタがそれを採用するが、ミルフィネットが一つの懸念点を伝える。
「しかし、これには一つだけ問題があります・・・」
「何だよ問題って、早く言うのだチビメガネ」
イラっとしながらミルフィネットが話を続ける。
「・・・・戦闘権利の剥奪・・・市民は、その安全を法が保証する代わりに、あらゆる戦闘行為が違法となってしまいます。魔神さんはかなりの戦闘力を持っているとお見受けしますが、それを今後使うことができなくなってしまいます」
「何だそんなことか、それなら問題ない」
間髪入れずにそう答えるジンタに、周りの仲間達もさすがにざわつく。
「ジンタ・・さすがにカルナギの戦闘力を失うのはもったいなくないか?」
ディレイがそう指摘するが、平然とした顔でこう言い放つ。
「俺はカルナギを戦闘力で見ていない」
そう。カルナギをエロい目で見ているジンタにとっては、その戦闘力を失うくらいのことなど些細なことでしかなかった。だけど周りの連中はそんな感じでその言葉を聞いてはいなかった。
「すまん。そうだったな・・カルナギはお前にとっては一人の友達なんだな・・」
ディレイがしみじみとそう謝る。周りの仲間達も、ジンタのその言葉に感心しているようだ。
「ジンタって・・意外に友達思いなんだね」
ニジナにもそう言われるが、ジンタはピンときていないようだ。
「だけど、カルナギ本人はどう思ってるんだ。市民になって街に入ることが望みなのか。さすがにラミアたち全員は無理だろうが、お前だけならジンタと召喚契約をするって手もあるぞ」
ヴァルダが最もな質問をする。それを聞いたカルナギは表情を変えずにこう言った。
「我はジンタの近くで暮らしたいと願う。戦いができないことなど、その願いに比べれば些細なことじゃ。それに召喚契約とは無粋じゃ。ジンタとはそんな関係にはなりたくはない」
ゆくゆくはジンタとは恋人になるのが目的のカルナギは、主従関係になるのは嫌がった。
「それでは、特殊市民権を得ることでよろしいですね」
ミルフィネットの言葉に、ジンタは深く頷いた。
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