第87話 魔神の心

我はどうなってしまうのだ・・胸を揉まれ、体をマントに包まれて、魔神はどんどん変な気持ちになっていく自分に戸惑っていた。だけど嫌な感じじゃない・・このままこの人間に身を任せれば、我は今まで感じたことのない心地良さを得られるのではないだろうか・・そう考えていた。


だけど・・違う・・これは何かが違う・・そうも感じていた。魔神は胸を貪るジンタをゆっくりと離し、今のもどかしい心を伝える。


「待て・・・人間・・・我は・・我はお主を何も知らぬ・・こんな事をされるのは嫌ではないのだ・・むしろもっとして欲しいと思う・・だが・・違うのじゃ・・何かこう・・順番が違うような気がするのじゃ・・我はお主をもっと理解して、何かこう・・お互いがそんな気持ちになって・・」


・・・・真面目か! 魔神のくせに、愛のあるエッチを求めるとは・・・ジンタは完全なる偏見で、魔神は性に寛容だと決めつけていた。なので予想外であるその言葉にどう対処しようか迷う。


「お前の気持ちはわかった。俺もお前を理解したい・・もっとお前を知りたいんだ」

ジンタはそれをエロい意味で言ったのだが、魔神はそうは捉えなかった。ジンタの真剣な目を見てこう答える。

「そ・・そうか。それでは・・そうじゃ・・あれじゃ・・わ・・我と・・恋人というものになるというのはどうじゃ・・確か人間の男女にはそんな関係があると聞いたことがあるのじゃ・・」


魔神がどこでそんな話を聞いてくるのかなどは疑問にも思わず、頬を赤くした魔神がそう話すと、少し考えたジンタはこう答える。

「恋人はまだ早い・・友達・・そう・・友達から始めるってのはどうだ」

ジンタのポリシーでは、友達でもエロいことをしていいと考えている。男の本能から、恋人だと面倒くさいことになりそうだと判断して、とっさにそう提案した。

「そうか・・友達から始めるってのも確かに聞いたことがあるぞ・・わかった。では、お主と我は今日から友達じゃ。そしてゆくゆくは恋人となろうぞ」


恋人云々は置いといて、エロいことはお願いしたいとは心の底から思っていた。さっきの反応から見ると、親しくなれば体を許すのも早いと、この時はそう考えていた・・・


「そうだ、魔神。お前の名はなんというのだ」

「我はカルナギ。お主の名も聞こうぞ、友よ」

「俺はジンタだ」

「ジンタか・・我が友ジンタ・・良い響きじゃ」



そんな事になっているとは考えもせずに、ジンタを心配する仲間たちは彼を救出する為に勇敢にも魔神に挑もうとしていた。


「生きて帰るのは難しいだろうな・・」

ロンドベンは、沈痛な面持ちでそう呟く。

「まあ、仕方ねえよな。ジンタだけ良い格好させるわけにはいかねえし」

それに比べてロッキンガンはどこか軽い感じであった。

キネアも胸に付けたペンダントを開いて何やらブツブツと呟いている。おそらく死の覚悟をしているのだろう。


「みんな覚悟ができたなら行くぞ。ジンタが待っている」

ジュエルがそう言うと、そこに残った全員が静かに頷く。もちろんニジナもその中にいた。彼女は手に持ったロッドを握りしめてジンタの無事を祈る。


そんな重い雰囲気でジンタを助けに来た仲間たちであったが、実際、魔神とジンタのいる場所へと到着すると、理解不能の光景に全員フリーズする。そこでは、ジンタと魔神、そしてラミアたちが楽しそうに談笑しているではないか・・


「ジ・・・ジンタ・・ちょっと・・大丈夫なの?」

ニジナが恐る恐るそう尋ねると、ジンタはキョトンとした顔でこう聞き返した。

「何が?」

「いや・・その人・・いや人じゃないけど・・その魔神さん・・」

「ああ。魔神のカルナギだよ。友達になったんだ」


ジンタが何を言っているのか、そこにいた仲間たちは理解するのにしばらく時間がかかった。そしてその意味を噛み締めて、驚きの声を一斉に発する。

「ええええええぇぇ!!」


魔神と友達って・・テイムとかじゃなくて、友達って、そんな事は可能なんだろうか・・・冒険譚や神話の世界でも、そんな話は聞いた事もない・・


それからカルナギは、ジンタたちの戦いを手伝ってくれると言いだした。これは大きな戦力アップを意味するのだけど、一つ疑問が出てくる。それをジンタが指摘した。

「一緒に戦ってくれるのは嬉しいのだが、今、俺の仲間が戦ってるのはお前の仲間の魔神たちだぞ」

そんなジンタの言葉に、カルナギは不思議そうに聞き返す。

「それがどうしたんじゃ。同じ種というだけで、あやつらとは友でもなんでもないぞ。ジンタは我の友ではないか、友の味方をするのが普通であろう」


どうやらカルナギには、同族への思いより、友への想いの方が遥かに強いようである。

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