第47話 翼を広げて

ジンタが気がつくと、ニジナとユキが心配そうに顔を覗き込んでいた。心配そうにしていた顔も、ジンタの意識が戻って笑顔になる。

「お・・・ブラックドラゴンはどうした?」

間抜けな口調でジンタがそう聞くと、ニジナが泣きそうな声でこう答える。

「ヴァルダたちが倒してくれたよ」

「うむ、そうか。なかなか役に立つ奴らだな」

「どうしてそんな上から目線で言うのよ」

「ある意味、上だからだ!」


なぜかジンタがいつもの調子なのが嬉しくて、意味不明なその言葉についつい笑ってしまう。こんな人がそう簡単に死ぬわけないよね・・


「よう、ジンタ。見ろよブラックドラゴン産のこの素材の山を」

ディレイが両手いっぱいに爪やら牙やら鱗やらを持ってやってきた。

「おっおっ・・どれくらいで売れるんだ」

「そうだな・・・ギルド買い取りで一千万くらいにはなるんじゃないか」

「すげー。ブラックドラゴン、宝の山だな」

「その宝の山に殺されそうになったやつが言うセリフじゃねえな」


一千万か・・そこから経費が引かれ、貢献度によって分配が違うから、どれくらい貰えるかわからないけど、五十万は硬いな。


大仕事を終えたパーティー特有の和やかな雰囲気に、ジンタの意識が戻ったことで、良い盛り上がりで今回の冒険は終わりを迎えた。家に帰るまでが冒険です、とディレイが注意するが、言った本人も含めてみんな少しフワフワしていると思う。


そんな浮き足立った状態でも、帰りは何事もなく順調に帰路につくことができた。寮に帰ると、ギルメンが出迎えて集まってくる。休むことなくそのまま打ち上げをしようと話になった。もちろん打ち上げは勇者酒場で行われる。なぜか今回の冒険に参加していない連中も多数参加していて、いつものごとく大騒ぎとなった。皆、冒険の話を聞きたがり、シュラザードが幽霊に取り憑かれた話や、俺がブラックドラゴンのブレスをまともに食らったことを話すと異常な盛り上がりを見せた。



ジンタがギルドの仲間に囲まれてもみくちゃにされている。私はそんな彼を少し離れた場所から眺めていた。少し寂しそうにしている私を見て、落ち込んでいると思ったのかルルカやリュカーが話しかけてきてくれる。彼女たちと話をしながらも、私の視線は頻繁にジンタを見ていた。視界に彼の姿が入るたびにチクチクと心の奥に刺激が走る。やっぱりブラックドラゴンから私を庇ってくれたあの行動はとても危険で決定的なものだったのかもしれない・・完全に私はジンタを好きになってしまっていた・・・


打ち上げという名の飲み会が終わり、私は部屋へと戻った。ベッドに転がり、天井を眺めながら考えるのは彼のことばかりであった。ジンタは私のことをどう思ってるんだろう・・やっぱりギルドの仲間くらいの認識でしかないんだろうな・・


そんな自分の思いも圧し殺さないといけない・・私は彼を好きになってはいけない・・なぜなら、私と彼は絶対に結ばれないからだ。


私はベッドから起き上がると、鏡の前に立った。鏡に映った自分の姿を見ながらため息をつく。そして服をゆっくり脱ぎ始めた。


小さな胸に小さなお尻・・見ようによっては少年のようなこの体・・男の人は多分、私の体を好まない・・それに・・


左腕につけた複雑な紋様が施された腕輪に手をかける。右手にそれが触れると、光の文字が腕の周りに浮かび上がり、カチャリと音がしてそれが外れる。この腕輪は女神様に貰った物であった。強力なステータス補正と魔力強化のある神器であるのだが、それ以外の効果が目的で身につけている。


腕輪を外すと、私の体の周りに光の輪がいくつも浮かび上がる。そしてこの神器によって封印されていた私の本当の姿が現れた。


鏡に映っている私には白くて大きな翼が存在する。そして額には、神に仕える種族を示す紋様が浮かんでいた。


大きな翼が人とは異なる異質な形となっている。こんな姿、絶対にジンタには見せられない・・見せたら嫌われる・・ニジナはそう思っていた。


天界で神に仕える飛天の民。人間たちは私たちのことを天使と呼ぶ。

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