1.111 つまり現実は絶対的な輪郭を持つものではない

【アヤカ@E-school】

やばっ!もうこんな時間!そろそろ帰んないと先生に見つかったら怒られる!!!

アヤカは慌てて廊下を走っていた。と言っても実際に走っているのではなく、E-school上でアバターを走らせているのだ。ログアウトすれば一瞬でE-schoolからは「帰った」ことになるが、いつも校門までアバターを移動させてからログアウトするアヤカである。

 アヤカは校庭を走り、体育館の前を横切る。

ふと、誰かがいるのに気付いた。どうやら二人で何か話し合っているように見えた。

ははーん、さては愛の告白だな。こんな夜遅くに。エッチ!!!

アヤカは気にせず校門に向かった。

<アヤカがログアウトしました>


ユウコ:@guest お待たせ。で、何の話?[10/10 23:57]

guest:@ユウコ 大切な話があるんだ。実は―――[10/10 23:57]

<ユウコのアバターが削除されました>



【トモヤ@現実世界:自宅】 

アヤカからメッセージだ。どうせ「!!!!」みたいにびっくりマークだらけのうるさい文章に決まってるよ。やれやれ。用がないなら連絡しないでほしいなあ。

トモヤは自分の部屋で読書をしていた。夜寝る前は読書の時間と決めているのだ。彼の一番の趣味は読書で、一日に一冊は必ず本を読む。しかしいわゆる「陰キャラ」というわけではなく、むしろクラスの中心人物といえる存在だ。彼の読書経験は、そのままクラスを盛り上げるトーク力へと還元される。

 それに比べてリョウのやつ。トモヤは友人のことを考える。あいつはいつもクラスの端っこにいる。E-schoolでも端っこにいるみたいだ。リョウははどことなく自分で周囲との距離感を調整しているような節があるとトモヤは思っている。冷静にふるまっているのも自分でバリアーを張っているからではないか、そう感じられる瞬間が多々あるのだ。

それにしてもあのE-schoolってやつ、あれは本当に馬鹿馬鹿しい。何が楽しくてネット上でまで学校に通わなくちゃいけないんだ。トモヤは割と古い考えを持っているので、ネット上のものはどうも信用ならないと思ってしまう。顔が見えないコミュニケーションは心が通わないというのがトモヤの持論なので、なるべく普段からE-schoolにはログインせずに、「本当の」学校でみんなとおしゃべりするようにしている。これが結局一番楽しいんだ。

 そうはいってもユウコみたいにあそこが居場所の人もいるんだし、あまり悪く言うことはできない。どこに自分の居場所を作るかなんて、人それぞれだもんね。そうトモヤは結論づけた。ヴァーチャルリアリティが「リアル」の人もいれば、「リアル」の世界こそが「リアル」の人もいる。そんなもんでしょ。



【クラスチャット@E-school】

リョウ:マジ!?wwワロタww[10/10 22:30 既読25]

<ユウコがログインしました>

ユウコ:それな!笑[10/10 22:43 既読26 ]

トシ:ユウコキターーーーーーーーーー![10/10 22:51 既読26]

ジュン:ユウコキターーーーーーーーーー![10/10 22:51 既読26]

<コウヘイがログインしました>

コウヘイ:ユウコが来たと聞いて[10/10 23:03 既読27]

モモ:ユウコじゃん!!おひさ~~^^[10/10 23:04 既読27]

トシ:一旦離脱するわ[10/10 23:08 既読27]

ジュン:乙[10/10 23:09 既読27]

<トシがログアウトしました>

モモ:ユウコ今度いつ学校くるの?[10/10 23:28 既読26]

コウヘイ:今来てるじゃん(真顔)[10/10 23:29 既読26]

モモ:@コウヘイ 違うよ現実の学校!笑[10/10 23:29 既読26]

コウヘイ:@モモ あーねw[10/10 23:30 既読26]

<トシがログインしました>

トシ:風呂入って来たわ[10/10 23:47 既読27]

コウヘイ:@トシ 乙[10/10 23:53 既読27]

ジュン:@トシ 乙[10/10 23:53 既読27]

ジュン:いらん情報ありがとな[10/10 23:55 既読27]

<ユウコのアバターが削除されました>

トシ:ちょwwwwwwwwwwwwww[10/11 00:01 既読26]

ジュン:乙[10/11 00:01 既読26]


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