第6話 第二の女神
「…ったく、なんで私がこんな事を
しなくちゃなんないのよっ!」
部屋にあったホウキで、鉢から盛大にこぼれ落ちてしまった土をチリトリの中へと丁寧に集めつつ、ブツクサと文句を言うハルナ。
「お前が鉢を倒したんだから、仕方がないだろう。悪さをした者が、自分で片付けをする。それはウサギの世界も人間の世界も同じ事なのではないのか?」
そう言って何故か床の上でシャドーボクシングのような仕草をしながら、ピョコピョコと跳ねているバロック君。
そのフォームもなかなかのモノで、
心なしかその表情すらも勇ましい。
「私は別に悪さの為に鉢を倒したんじゃないの!何かお姉ちゃんの手かがりになるものが埋められているんじゃないかと思って…そしたら土の中からこの宝石が…」
そう言って服の中からペンダントの宝石を取り出そうとするハルナを、バロックは再び静かに手で制した。
「おっと、お嬢ちゃん。
それはここではむやみに出さない方が身の為だゼ。今はまだしまっておくのが賢明だ。」
「…う…うん。」
ハルナにはバロックの意図するところがさっぱり分からなかったが、とりあえず今はその場の流れでバロックの指示に従っておく事にした。
「さて、ハルナ。
掃除はそろそろ終わったかな?」
軽くその場で背伸びをしつつ、
そうハルナに問いかけるバロック。
「あ!うん。あとはこの土を鉢に返せば…
よしっできた!これでこの部屋も元通りね!」
そう言って満足そうな笑みを浮かべ腰に手をやったままウンウンと頷いているハルナ。
「そうか、じゃあそのまま俺について来い。お前に紹介したい人間がいるんだ。」
そう言って、ニヤリと笑うバロック。
この時、バロックのウサギ特有のクリクリとした大きな黒い瞳が、僅かに怪しく光った事に気がついたハルナは、ごくりと一つ唾を飲んだ。
◇◇◇
「すごい…こんな設備があっただなんて…
まるで全然違う世界みたい。」
ジーナの部屋の前の廊下を数歩進んで、バロックに案内をされるがままに、少し大きめの扉をくぐった瞬間、目の前には長々と続く赤い絨毯が飛び込んで来た。
先程のジーナの部屋とは異なり、壁の装飾もさることながら、ところどころに置いてある家具や照明もやたらと豪勢で、豪華であるはずなのに、その華美すぎない上品でフォーマルな雰囲気はまるでどこかのお城にでも来たかのようであった。
「ここが本来のD-Queenの住むべき棲み家さ。女神達は戦いの場を離れると、みんなここで優雅にひとときの休息を楽しんで過ごしているんだ。」
目の前に突如として広がったあまりにも豪華すぎる建物の佇まいに驚き、キョロキョロとあたりを見渡すばかりでなかなか前へと進めずにいるハルナの事を気遣いながら、バロックは答えた。
「でもジーナは、ここには住めないのね。
D-Queenのトップにまで登りつめたはずなのに。」
「さっきの建物はまだ選手とは呼べない、
D-Queenの称号すら持っていない娘達が下積み時代に過ごす寮だ。ジーナはとっくにロイヤルルームへの引っ越しを許可されているレベルだったが、本人がとてつもなく嫌がってな。特例で訓練寮で暮らしていたんだ。」
「なんでジーナ、こっちで住むの嫌がったんだろ?何かこっちに変われない理由でもあったのかな…」
「いや本人いわく、ただ引っ越しが面倒臭かっただけなんだそうだ。…まぁ、普通の人間なら訓練生からD-Queenになるまででも早くて2~3年かかってしまう所を、ジーナはたった半年でなってしまったからな。もう少し腰を落ち着けたかったんだろう。」
そう言ってバロックは、より大きくてより豪華な装飾をあしらわれた扉にそっと手をかけた。
バロック用に準備された
特別な仕様か何かなのだろうか。
まわりを見ると、どの部屋のどの扉にも
背の小さなバロックでも無理なく開けられそうな低い位置に小さなドアノブが取り付けられていた。
気を利かせたハルナがバロックの扉を開ける動作手伝うと、重たい扉が静かに開かれた。
「あら、可愛いお客さんね。」
扉が開いた瞬間、
鈴が鳴るような美しい声がハルナの耳へと届いた。
そのドアの先にいたのは――――…
エメラダ・サクラシア
ジーナに次ぐ、
現D-Queen ナンバー2の姿だった。
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