第12話 チュートリアルの先
最初に五体のゴブリンを倒してから既に数時間。
あれから俺は最初の五体を合わせて十二体のゴブリンを倒している。
それにより、今のステータスはこんな感じだ。
★
名前 朝倉 悠椰
性別 男
職業
生命力 268/268
魔力 272/272
力 265
守 266
抗魔 271
敏捷 262
器用 272
精神 270
▼スキル
[身体強化][魔力操作][
[言語翻訳]
★
やはりレベルが上がれば次のレベルアップには前回よりもゴブリンを倒さなければならない印象だった。
とは言ってもやはりかなりレベルアップが早い気はするがな。
そして今まで倒していた感じ、後二~三体倒せばレベルが30に上がる気がしている。
レベルが30になれば、ようやくこのふざけた職業から解放される。
だから早く30レベルにしたくはあるのだが、正直時間的限界が迫っている。
学校に戻らなければならない時間もあるが、そちらはまだ余裕がある。
それよりも問題なのは俺の体が限界に近い事だ。
29レベルに上がった瞬間から感じるこの疲労感とだるさ……
これは前回倒れた時に感じていたものと全く同じだ。
つまり俺はまた体が成長する為に強制的に昏睡状態へと陥ってしまう。
出来ればそうなる前に30レベルに上げておきたい。
流石に頻繁に倒れ過ぎだ。
ここで倒れれば安静にするように言われ、当分校内から出してもらえなくなるかもしれない。
ならせめて30レベルだ。
言われたとしても30レベルに上がっていれば逆に考える時間が多く手に入り助かる。
俺はそう思いながら肩で息をし、ゴブリンから奪った槍を杖代わりに支えにする。
それを横目で真剣な表情で好川が見てきた気がしたが、気にかけている余裕は無かった。
「あのゴブリンの集団を最後にし、滝本先生と合流の後学校に戻ろう。これ以上は流石に無茶だ」
好川は三体のゴブリンを指差してからそう言って俺の顔を真剣に見つめてきた。
三体……
なら足り。
恐らくだがそれでレベルが上がるはずだ。
それに好川の言う通り、これ以上続ければ戦いに支障が出てくる。
今はまだ疲労感とだるさはあるが、動けない訳でも集中力が切れたわけでもない。
だがこれが続けば体が次第に思い通りに動かなくなり集中力も切れ、最悪命を落とすかもしれない。
それは避けなければならない。
勿論これが俺の我が儘で、今すぐ滝本先生と合流すべきなのもわかっている。
けれどそれでもここで立ち止まる訳にはいかないんだ。
好川が言っていたことが本当に起こるなら、俺は少しでも強くならなければならない。
「わかりました」
「よし。なら一応作戦を説明するが今回は剣を持っている奴が一体で、そいつの左右を槍を持っている奴等が固めてる感じだ。そして奇襲で最初に落とすべきは左右どちらかの槍を持って居る奴だ。リーチの戦いになれば二対一で手数で劣る悠椰が不利になる。だから先に片方を落とし、対等にするんだ。そして剣を持っている奴だが、一定の距離さえとっていれば脅威にはなり得ない。だから絶対に懐に入られないように立ち回るんだ。そうすれば勝てる」
俺は好川の言葉に頷くと、すぐさまゴブリン達に気づかれないように裏をとるため移動した。
数回戦ってわかったが、ゴブリン達はあまり周辺警戒を行っていない。
なんと言うか、獲物は探しているが見つかれば運がいいな、ぐらいの考えで移動しているように感じられる。
だからこうして簡単に裏をとれてしまう。
裏をとった俺はそこで静かに深呼吸をし、息を整える。
…………よし!
戦う準備と覚悟が出来た俺は心の中でそう叫び、[身体強化]を発動しながら右手で槍を強く握り、ゴブリン達に向かって走り出した。
俺の足音に気づいたゴブリン達が勢いよく振り返るが、その瞬間俺から見て右端のゴブリンの頭を槍の穂先で貫く。
そしてゴブリン達が何か反応を示す前にすぐさま槍を引き抜き、その勢いを殺さずにそのまま上半身を右方向に捻る。
更にその時に槍を持つ力を抜き、遠心力を利用して槍の石突付近まで持つ場所を変える。
そこから更に上半身を右方向に捻り、足を移動させながら体の向きを変え、逆サイドに立っていた槍を持つゴブリンの頭を勢いよく穂の刃ではない部分で叩く。
そうすれば叩かれたゴブリンは軽い脳震盪を起こしたのか、ふらつきながらその場に倒れ込んだ。
だがあまりに強くゴブリンの頭を叩き過ぎたせいで槍の穂先が折れ、元々使っていた槍が使い物にならなくなった。
俺はそれを確認するとすぐさま槍から右手を放し、最初に倒したゴブリンが持っていた槍を奪いながら距離をとる。
「ギギ……」
「ギィギィ!」
クソ……
やはりそう思い通りにはいかないか。
正直もう一体の槍を持った奴も続けざまに倒したかったが、槍の穂が横向きではなく縦向きになっていたせいで倒しきる事が出来なかった。
だが流石にすぐさま戦線復帰は無理そうだ。
ならこのまま剣を持っている奴を倒せばすぐにかたがつきそうだ。
俺はそう思いながら今にも突っ込んできそうな剣を持ったゴブリンに、両手で持っている槍の穂先を向ける。
しかし槍の穂先を向けられたゴブリンはすぐさま突っ込んでこず、隣で倒れたゴブリンの持っている槍を奪い、それを勢いよく俺に向かって投げてきた。
嘘だろ!
コイツ等は突っ込んでくるしか能がなかったのに。
このゴブリンは違うというのか?
俺はその行動に内心そう驚きながらも、投げてこられた槍を冷静に自身の持つ槍で払いのける。
それを見ていたゴブリンは、なんとも醜い笑みを浮かべる。
そして次の瞬間には俺に向かって突っ込んできた。
やはり同じか……そう油断した直後、ゴブリンは持っていた剣を左上に向かって投げ捨てた。
そんな突飛な行動に俺の体は硬直し、思考が完全に止まる。
一体……何をやっているんだ? このゴブリンは?
「悠椰!!!」
そんな好川の叫び声で俺はふと我に返り、視線を投げられた剣から下に落とせば、俺の懐まで接近しているゴブリンが居た。
クソ!!
これが狙いだったのか!
完全に油断していた!
俺はそう後悔しながら距離をとろうとするが、それよりも早く懐に入っていたゴブリンが右手を強く握りしめ、力強く振りかぶり俺の鳩尾付近を小突いてきた。
…………
恐らくゴブリンは本気で殴ってきたのだろうが、肉体の強度……つまりはステータスの差で全くダメージが入らなかったのだろう。
武器が無ければここまで違うのか。
逆に言えばもしコイツが何かしらの武器を隠し持っていたら危なかった。
例え同じ相手でも油断は禁物。
それをこのゴブリンは心底理解させてくれた。
だからこそ油断はしない。
俺はそう思いながら殴ってきたゴブリンを即座に蹴り飛ばし、持っている槍を思いっきり蹴り飛ばしたゴブリンの頭目掛けて投げつけた。
そうすれば投げられた槍は見事にゴブリンの頭を貫き、奥の木に突き刺さる。
頭を貫かれたゴブリンは動く事なくその場で力尽きている様子だ。
俺はそれを確認してから先程ゴブリンが投げた剣を拾い、脳震盪で倒れているであろうゴブリンの首を斬り落とした。
これで倒せただろう。
★[
チュートリアル特典としてチュートリアルで獲得した能力値を代償とすることで
スキル[アイテムドロップ]が獲得できます
獲得しますか?
はい/いいえ
そう思った瞬間、突如として目の前にそんな青白いウィンドウが現れた。
なんだ……これ?
チュートリアルが終わった……
恐らくはレベルが30に上がったという事だろうが、それにしたって意味が分からない。
なんだ? チュートリアルで獲得した能力値を代償にすることって?
「悠椰! 大丈夫か?」
つまりはこれまでにレベルアップで得たステータス値を全て無に帰すという事か?
なんだよそれ!!
だがそこまですることによって得られるスキル……
「おい! 悠椰!! 大丈夫なのか!?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
俺は体をゆすられて、ようやく好川が近くに来ていたことに気づいた。
あまりにも突然で予想外の出来事に、考えるのに集中し過ぎていたという事だろう。
それにあまりにも咄嗟の事で混乱しており、好川に対して猫を被るのを忘れていた。
俺はそれをすぐさま理解し、冷静に人と接する時の猫を被る。
「本当に大丈夫なんだな?」
「はい。大丈夫です。ゴブリンに殴られはしましたが、痛みすらありません」
「なら良かったけど……これからは絶対に油断するなよ?」
「わかりました」
俺は好川にそう答えながら、怪しまれないようにウィンドウのはいの部分を押す。
確かにこれまで獲得したステータス値が無に変えるのは痛い。
だがステータスは職業を変えれば恐らくまた上げられる。
けれどこのスキル[アイテムドロップ]は今後獲得する事は不可能だろう。
何故なら説明に、チュートリアル特典と書かれているからだ。
なら迷わず得ておくべきだろう。
名前からして無駄になりそうなスキルじゃないからな。
★注意★
これまで獲得したステータス値が無くなり、初期のステータス値に戻ります
それでも本当に構いませんか?
はい/いいえ
……本当に親切だよな。
俺はそう思いながらウィンドウのはいの方を押した。
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