農民が魔法にドはまりした!

明日出良也

農民の仕事

第1話 目覚め

「今日もいい朝だ。」


窓から入ってくる太陽の光で目が覚めた。

ベッドから降りるとすぐに水瓶で顔洗い家の外に向かう。

家の前には色々な野菜の畑が広がる。

それを世話し育てて、朝一番に収穫をし売りにいく、それが彼の仕事だ。

そう、彼はただの農民である。


「よし、さっさと収穫して配達の準備するかぁ」


まだ太陽が出たばかりで少し薄暗く肌寒い中、彼は一人野菜畑で収穫をはじめた。

朝露が滴りどれも綺麗な色をし傷もなく良く手入れさせている野菜たち。

味も格別に良く、その野菜に彼は自信を持っていた。

数年前に不慮の事故で両親は他界し、兄弟も居らず一人になってしまったが残された野菜畑を相続し、しっかりと守り贅沢はできないが満足いく暮らしをしている。


「確か今日は、酒場のおじさんところに届ける日だったかな。いつもより多めに収穫しないとなぁ。一人だとかなりの重労働だなぁ。」


ぼやきながらも手は止まらず、木箱6つ分くらいの野菜を収穫した。

収穫した野菜が入っている木箱を荷車に乗せロープで縛り、家の前に運び。

その後、ため池から水を汲み野菜に水やりをする。

それが終わると井戸から水を汲み水瓶と水筒に新しい水をいれ、少し休憩をすると。

すぐに彼は野菜を積んだ荷車を引きはじめた。

彼の家の周りのほとんどは農家だ。

近くの村ではほとんどみな自給自足をしていて自慢の野菜もあまり売れない。

そんな彼が野菜を売りに行くのは隣町になる。

親が残してくれた伝手と自分の体を使い少し離れた隣町まで片道約5時間の道乗りを荷車を引いて売りに行っている。

今日も隣町にある酒場に野菜を届けるため荷車を引く。




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最近晴れの日が続いたせいか道も良く、今日は昼前に着くことができた。

町に入るには列に並び1時間ほど待つことになる。

何事もなく検問を抜け、目的地の酒場に着いた。


「くっそー。俺は剣で生きるんだぁああー!!」


店から路地まで聞こえる大声がする。


「あれ? おっちゃんいる? 今日はもう店やってんの?」


いつも夕方過ぎからしか開かない酒場が今日は昼過ぎからしているとは珍しい光景だ。


「あーー。テイか、よく来たな。迷惑なバカが朝から飲んでるんだ。悪いがいつもの物は倉庫に運んどいてくれ。」

「わかった。」


酒場の裏手の勝手口から入り、持ってきた野菜を地下の倉庫に運んでいく。

運ぶ作業を繰り返していると、酒場のおっちゃんから声をかけられた。


「今はシチューとパンくらいしかないが今日も食べていくか?」

「ありがと、いつも悪いね。」

「なにお前のところの野菜のおかけでだいぶ儲かってんだ気にするな。終わったら店に入ってきてくれ。」


両親が亡くなってから何かと気にかけてくれて、野菜を持ってくると毎回何か食べさせてくれる酒場のおっちゃんはいい人だ。

野菜を運び終えて酒場の店内に入ると、酒場のおっちゃん以外にカウンター席でうつ伏せ寝をしている客がいた。


「テイ終わったか、じゃあこっちの席に座れ。そいつに近づくと変に絡まれるから気をつけろ。」

「うっせよー。俺は客だぞ。お客様だぞ。」


おっちゃんに勧められるままうつ伏せ寝の客から一番離れたカウンター席に座った。

すぐさま、目の前にシチューとパン、そして、エールが置かれた。

料理のにおいで腹が鳴った。

それを誤魔化すようにシチューをかきこみ、エールを流しいれ、パンにかぶりつく。

おっちゃんの料理はうまい、絶品だ。

酒場なんて開かずに食堂やレストランを開けとみんなに言われているほどの腕だが、自分の趣味で酒場している。

今日も濃厚なシチューに野菜の味が溶け出し格別においしい。パンも自家製で外はカリカリ中はふわふわとこれもおいしい。


「今日もうまいよ。」

「ありがとよ、しっかり食え。家ではちゃんと食べてるのか?」

「まぁ、うちの野菜は生でもおいしいし、配達帰りは屋台で何か買って帰って食べてるよ。」

「そうか、町に来るときは顔みせろよ。飯くらいいつでも食べさせてやるからな。」

「うん、ありがと。」


「よう坊主、いい話があるんだが聞かないか?」


酒場のおっちゃんと和やかな雰囲気で会話をしていたら、カウンターにうつ伏せ寝していた客が体を起こし話しかけてきた。


「ダスクやめろ。黙って酒を飲むか、さっさと金を払って帰れ。」

「別にいいじゃねぇか。俺はおまえじゃなくて坊主に話しがあるんだ。それに、別に騙して食ってやろうなんて考えちゃいねぇよ。」


話しかけてきた男は短髪でガタイが良く、少し酔っているのだろうか顔が赤い。


「それでどうだ坊主俺の話を聞くか?」

「聞くだけなら。」


ダスクと呼ばれる男は自分の席を立ちテイの隣に席に座り体を近づけてきた。

ここで聞かないなんて言える状況ではない。

テイからすると軽い脅しに感じる。


「まぁいいか、坊主は魔法って知ってるか?」

「物語に出てくる人が使う不思議な力の事だろ?」

「まぁ大体そうだな。もし、そんな力が手に入るとしたら欲しくないか?」


ダスクの一言は一六歳の少年には『英雄』に成りたくないか?と聞こえた。


「実はな、俺は魔法が覚えれるスクロールを持ってるんだ。坊主は知らないと思うが才能と金さえあれば魔法は覚えることができるんだぜ。」


自分の暮らしだけで精一杯の田舎の農民の少年が当然知るはずもない事である。


「これがその魔法のスクロールだ。」


白色の巻物を懐から出してきた。


「ここからが重要な話なんだが、これは開封済みだ。俺が開けたんだが、たまたま俺とは合わなくてな。効果は発揮していなくて才能があるものが読めばまだ使える。だが、開封済みはもうどこも引き取ってくれねぇ。一度才能があるやつが見れば効力を失うものだからな開封されればもうゴミ同然って事さ。

そこで俺が要らなくなった、このスクロールをおまえが買わないか?」


欲しいか欲しくないかと言えば断然欲しいし、憧れる。

だが、才能がなければこの男と同じようにただのゴミになるだけだろう。

思いが揺れる中一番の重要な条件を聞いた。


「いくら?」


そう、農民のテイが払える金額はとても少ない。

そんな事ダスクもテイの見た目から百も承知の事だろう。


「そうだな。定価40万のこのスクロール。俺は今回たまたま道具屋のじいさんの護衛で安く買わせてもらったが。まぁ、それでもおまえみたいな農民の小僧が払うにはちと高いな。だが今回は格安だ。今日俺がここで飲んだ金額、それでいいだろう。どうだ? 安いと思わないか?」


ダスクは笑顔で両手を広げ、すごい安いだろうと体を使いながら言ってきた。


「テイやめとけ。ダスクは嘘は言ってないだろうが覚えられなければただのゴミだぞ。やめとけ。」


酒場のおっちゃんが忠告してくれる。

それでも魔法という物に興味を示した少年が止まることはなかった。


「わかった。払う!」

「よーし、交渉成立だ。このスクロールはお前のだ。」


ダスクは満面の笑みでテイにスクロールを渡す。


「それでマスター俺が今日飲んだ分いくらになんだ?」

「1万マニーだ。」

「はぁ? そんな安くないだろ? 朝から昼までそれなりに飲んだぞ?」

「安いさ、安酒を水で薄めてるからな。朝から叩き起こされた上に、散々愚痴を聞かされ、どうせ味もわからない奴に高い酒なんてだすかよ。」


おっさん同士の言い合いはもう全くテイの耳には届いていなかった。

そして手に入れたスクロールをテイが開こうとするとダスクに手を掴まれた。


「坊主そう焦んな。俺の前でそれを開くのはやめろ。」

「どうして?」

「万が一おまえが魔法を覚えたら俺の心が傷つくじゃないか!!」


言ってる事が事実なんだろう。

どう受け答えしていいかわからない。


「安く譲ってやったんだ。それくらいの願い聞いてくれてもいいだろう?」

「わかった。ここで開くのはやめとくよ。

おっちゃん、今日持ってきた野菜の代金から1万マニー引いといて。」

「ああ、わかった。これが残りの金額だ。気を付けて帰れよ。」


酒場のおっさんから野菜の販売代金を受け取ると、白いスクロールを脇に抱えテイは足早に荷車を引きながら酒場をあとにした。

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