第3話|四つ葉のクローバー

 それから真己は本当によくしてくれた。私が学校に慣れるまでは──といっても、実際は卒業まで一緒に登校してくれたり、何か困ったことがあったら助けてくれたり、遊び仲間に加えてくれたりもした。

 私にとってスーパーマン的な存在である真己でも、かわいらしい失敗はいくつかある。その中で、今思い出しても、ぷっと吹き出してしまいそうなことが一つ。あれは、小学校四年生の時だった。


 当時女子の間で「幸福を呼ぶ四つ葉のクローバー」が流行っており、それに便乗していた私は、友達と二人で近くの土手で捜索を始めた。何時間、何日と、よくもまあ飽きもせずに探したものだ。

 捜索開始から三日が過ぎても、結局私は見つけられなかった。友達は二日目辺りで幸福を手にしていたのに。

 意地も加わり、どうしてもその日中に見つけたかった私は、友達が帰ろうと言っても聞き入れなかった。痺れを切らした友人は先に帰り、西日がもう沈みかけていた頃、半泣き状態だった私に声がかけられた。


「菜々子ー?何してるんだー?」


 真己だった。


 私は事情を説明し、家に帰らない理由を伝えた。真己は暗くて見えないだろうにと半ば呆れていたが、私に付き合って四つ葉のクローバー探しをしている。

 三日間も探し続けた私が見つけられないのだから、真己に見つけられるわけがないと、たかをくくっていたのがまずかった。私は重要なことを真己に伝えるのを忘れていた。

「四つ葉のクローバーは自分が見つけなければならない」そんな決まり事があったのだ。

 私の苦労は、真己の喜びの声で無残にも泡となってしまった。


「どうして真己が先に見つけちゃうのよ!真己のバカ!こんなのいらない!」


 悔しさから私は真己に八つ当たりを始める。これには真己もむっとした様子を見せるが、特に怒鳴ったりはせず理由を聞いてきた。


「これはね、自分で見つけなきゃ駄目なの!それは真己が見つけたんだから、真己のものなの。私は自分で見つけるからいい」


 そして再びしゃがみ込む私。真己は一つ息を吐いて私の手をとった。


「遅いから今日は帰ろう。おじさんもおばさんも心配してるよ」

「真己のせいなんだからぁ。もうちょっとで見つかってたのにー」

「悪かったよ、ごめんな」

「もー、バカバカ。謝ってすむ問題じゃない」

「はいはい」


 引っ込みがつかなくなっている私に気付いているのか、真己は私の八つ当たりも軽く流し、他愛ない会話へと変えてくれる。いつもそうだった。


 しかし、真己のお人好しはこれで終わらない。

 次の日のお昼休み。校庭に遊びに行く子もいれば、室内で何かをして楽しんでいる子もいる。

 私はどちらかというと校庭派だが、この日は友達と「クローバー談議」をしていた。クラスでもちらほら、四つ葉のクローバーを持ってる子がいると言う噂があがったからだ。羨ましい気持ちとやる気が混ざり、今日も頑張って探すぞ!と決意を固めていると、クラスの何人かが私の名を呼んだ。

「榎本さん、呼んでるよ」見ると真己がドアの付近で手招きしている。私は不思議に思いながらも駆け足で真己の元に向かった。

 子供特有なのか、抜け道や秘密の場所といった大人が気付かないようなひっそりとした所を熟知している。真己も例外ではなく、昼休み最も人が少ない場所へ行き、本題へ入った。

 真己はごそごそとお尻のポケットを探りながら話をする。


「これ、俺が持ってても仕方ないし、俺の幸せを半分分けるってことでいいだろ?」


 最後の言葉と重なるように差し出された手の中には、昨日真己が見つけた四つ葉のクローバーがあった。

 違うところは、長時間放ったらかしにしていたからか、はたまたポケットに入れていたからか、元の姿を思い出せない程しおれていたという点。


「これ……」


 クローバーの姿にというよりは、真己の行動に意表を突かれた私が一言呟くと、手の中の惨状に気付いた真己は、勢い良く手を引き戻した。


「あ、や、やっぱり今のなし!」


 顔も耳も真っ赤になっている。


「今日、もっとちゃんとしたのに替えてくるから!」

「あ!真己!」


 そして脱兎の如く走り去る真己に声をかけるも既に遅く、ものの数秒で姿を消した。私は話の展開についていけず、しばらくぽかーんと立ち尽くしていた。

 だがこれで本当にその日クローバー探しにいったのだからすごい。真己のお人好しは筋金入りなのである。

 四つ葉のクローバーは結局どうだったのかというと、見つからなかった。やはり人生そううまくはいかない。真己なんて私よりもしょげてしまった。

 でも、代わりにご利益がありそうな栞を手に入れた。なんてことはない、真己が見つけたあのしおれたクローバーを押し花にしたのだ。ちょっと不格好になってしまったけど、真己があんなに喜んでくれたし、私は大満足である。



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