君がいたから
橘右近
第1話|帰宅
6月28日。
その日は梅雨時にもかかわらず嫌味なほど晴れていた。
火葬場から天へと昇る煙を見つめ、私は一時間程前に別れを告げた人を思い出した。
私の幼馴染みで、家族のような存在でもあった彼は、一言で言えば面倒見のいい人。言葉は少ないけど、人のことを思いやれる優しい人だ。側にいると、暖かく穏やかな気持ちにさせる雰囲気も持っていた。
享年21歳だった。
人の死というのは、多少なりともやりきれない思いが残る。その原因が事故──とかく人命救助をした挙句に失ったとあると、その思いは強くなる。
助けなければよかったのにと言えるほど無情ではないし、救助された人の命が無事でよかったというだけで片付けられるほど寛大でもない。
そもそも事故が原因だと知ったのは昨日のお通夜だった。これもやりきれない要因の一つ。もし事故に遭った人達が駆けつけてくれなかったら、ずっと謎の死のままだった。
「今まで何事もなく過ごしてきた青年が、仮眠から再び起きることはなかった」とか何とか言って、奥様たちの井戸端会議のいいネタになるだけだ。
たまたま真己が一人で歩いている時に、たまたま知り合いの子供が車にぶつかりそうになり、助けた真己が転がる先にコンクリートの塀があって、運悪く頭を強く打ったということだ。
全くなんてことだろう。
真己は人の面倒をみるのは好きなくせして、自分のやったことで人の世話になることを嫌がる節があった。だから今回のことも誰にも言わなかったのだ。
それにしても、そんな大事なことがあったのなら教えてくれればよかったのに。「頭が痛いからちょっと寝る」だけじゃ、疲れてるのかな?くらいしか考えないわよ。もし事故のことを知っていたら、引きずってでも病院に行ったのに。全く、真己のバカ。
でも、真己がそういう性格で、病気という病気もしたことがないのを知っていて何の対処もしなかった私もバカだ。バカバカ。
怒りの矛先が見つからない私は、苛々し、どうしようもないことにただ頭を巡らせた。
今し方告別式から実家に帰ってきた私は、とりあえず自分の部屋に向かい手荷物をベッドの脇へ置いた。その中の一つに真己のお母さんから手渡された物があり、私はそれを手にベッドへ腰掛けた。
小さめの紙袋の中身は何かのプレゼントのようだった。
私はまだ開封する気にもなれず、くるくると色んな角度でそれを見つめる。そして軽く息を吐いて物に語りかけた。
そのプレゼントが真己からの物だからだ。
「8年も一緒にいたんだしさぁ、家族同然の間柄なんだから、私にくらい言ってもいいんじゃないの?」
もちろん返事はない。私は深くため息をついた。
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