気がつかない

ツヨシ

第1話

私の家から三軒ほど隣にある村下さんのご主人が、突然死んだ。


家飲みで酔っ払って階段から落ちて死んだもので、なんとも格好悪い死に方だ。


村下さんには奥さんと小学校低学年の女の子がいたが、葬式などを一通りすますと実家に帰ってしまった。


つまり村下さんちは今空き家だ。


でも空き家になってすぐに、近所中で噂が立ち始めた。


出るって。


何が。


それは村下さんの幽霊だ。


すでに何人も見た人がいるという。


私は幽霊を信じているし、一度見てみたいとずっと思っていたのだが、三十年近く生きてきて未だに幽霊を見たことがなかった。


これは絶好の機会だと思い、村下家を訪ねた。


呼び鈴を押すと、中から「はい」と言う声が聞こえてきて、村下のご主人が玄関の戸を開けて普通に出てきた。


「なんでしょう」


そう言う村下さんは、生きているときとなんら変わることがなかった。


その身体が透けていて、後ろの景色が見えていることを除けば。


生まれて初めて幽霊が見れたことに感激しつつ、私は言った。


「村下さん、こんなところで何をしているんですか?」


もっと気の効いたことを言えばよかったかなと後悔していると、村下さんが怪訝そうな顔をした。

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