第45話 いやらしい能力
「……いい質問だね。実は人や動物に使うと、かなりランダム要素が出てくるんだよ」
「ランダム要素?」
「そう。生物は”意思”を持っているからね。同じMPを注いだとしても、同じ結果が出てくるとは限らないんだ」
人や動物等の生物に対して使用したときは単純にINTだけで結果が決まるわけではない。本人の気の持ちようで解析結果がかなり変わってくる。
「百聞は一見に如かずだね。これは見せたほうが早いと思う」
「今からレイナにアナライズを掛けるけどいいかい?」
「……えっ!?……ちょ……ちょっと待ってね……」
僕の問いかけに対して、レイナが驚いた顔をしながら手で制してきた。そのまま彼女はなにか思いを巡らせている。
……どうしたんだろう。
なんか、アナライズされてまずい事でもあるのかな?
出来れば協力してくれるとありがたいんだけど……
彼女はしばし考えた後、僕に質問をして来た。
「……最初に聞いておきたいんだけど、人に掛けるとステータスが見えるという事よね?」
彼女の態度は少し気になったけど、僕は素直に答えを返した。
「うん、まあ、MPによってこれも見られる範囲が変わってくるけどね」
「……それってスキルとかも見られちゃうものなの?」
レイナがやたら細かくアナライズの事を聞いてくる。
ポーションに掛けるときはこんなに聞いて来なかったのに……
そして、なぜスキル?
「えっと……まあ今回MPをほとんど使わないからスキルまで見れないかもしれないけど……」
「……何か気になることでもあるのかい?」
「ううん!!そんなことないわよ!……ただ、ちょっといきなりだったから驚いただけよ」
そう言って彼女は身振り手振りで僕の問いを否定してきた。直後レイナは自分の胸に手を当てて大きく深呼吸をする。それはこれから来るであろう嵐に対する心の準備をしているようにも見えた。
うわ……なんか凄い気になるんだけど。
絶対なんか気に障っていることがあるパターンだろこれは。
でも、これも深く突っ込んじゃいけないんだろうな……
これまで女性とあまり縁がなかった僕だけど、ここに来て急に接点が増えてきた。そのおかげで少しは女性というものが分かった気がする。
意味深な話題に関してあまり女性に深く突っ込んではいけない……これがここ最近身に着けた僕の処世術だった。
この場面でもこれ以上聞いてはいけないと、僕の第六感がそう告げている。彼女は僕の思惑を知ってか知らずか呼吸を整えた後静かに話を続けてきた。
「……大丈夫。掛けていいわよエノク」
彼女はなにか覚悟を決めたかのような目線で僕を見据えてきた。明らかに異質な雰囲気を漂わせている彼女の反応に僕は戸惑った。
……ええっ!?
なぜ、そこで覚悟を決める必要があるんだよ!!?
心の中でレイナに突っ込みを入れる。
なんで彼女が悲壮感溢れる顔しているのか僕には見当が付かない。このまま素直に掛けていいものかかなり迷う。だけど、彼女が良いって言っているんだ。ここで掛けない手はないし、覚えさせるのならどうしても手本を見せざるを得ない。それに、自分が掛けられたらどのように見られるのかも知っていた方が絶対良い。
僕は二の足を踏みながらも能力を掛けることにした。
「……分かった。じゃあ掛けるね?」
「……ええ。お願い」
僕は彼女の了解を得ると、彼女に向けて手のひらを掲げた。
そして、同時に能力を発動する。
「アナライズ!」
彼女は目を瞑り不動の姿勢でその場にたたずんでいた。
僕の手のひらから放たれた魔力が、レイナに絡みつきその中に入り込んでいく。そして、徐々に彼女の中のものを掘り起こしていった……
「……んっ」
「あっ……いや……」
レイナのどこか艶っぽい声が僕の耳にこだまする。
なんかこのシチュエーション妙にそそるものがあるな……
僕の能力が発動している間、彼女は身じろぎしながら何かに必死に耐えている様子を見せる。そんな彼女の姿はなんというか……色っぽいというか官能的というか。
これは意外に……うーむ……悪くないなぁ……
…………てっ、なぜそこで声が出るんだよ!?
僕は再度彼女に突っ込みを入れられずにはいられなかった。
魔力探知系のスキルや能力を持っていればアナライズが掛けられていることも分かるけど、彼女は当然そんなものを持っていないはずだ。もちろん掛けられるときに痛みなんてあるはずない。
悲壮感漂う雰囲気を出しておきながら、実はちょっと楽しんでないかい!?
フォン……
僕が彼女に突っ込みを入れている間に解析はどうやら終わったようだ。僕の網膜に彼女の情報が表示される。
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アナライズ結果【10】
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氏名:測定不可
種族:測定不可
年齢:測定不可
身長:測定不可
体重:測定不可
Lv:測定不可
HP:測定不可
MP:測定不可
STR:測定不可
DEF:測定不可
INT:測定不可
VIT:測定不可
CRI:測定不可
DEX:測定不可
AGI:測定不可
LUK:測定不可
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「うわっ!……なんだこれ!!?」
僕は結果を見て思わず裏返った声を出してしまう。こんな結果を見るのは滅多になかったからだ。僕の様子に驚いたのかレイナが怪訝な声で尋ねてくる。
「ど……どうしたの?」
「いや、どうしたのって……」
それはこっちのセリフなんですけど……
こんな結果が出るということは答えは一つしかない。
「レイナ…………僕にもの凄く壁張ってないかい?」
「えっ……!?」
彼女が不可解な面持ちで僕の方を見てきた。
僕はゆっくりと状況を説明する。
「レイナの情報を見ようとしたらすべての情報が”測定不可”になっているんだ」
「これは情報としては存在しているんだけど、なんらかの障害があってそれを取ってこれないことを意味している」
「えっと……それはつまり、レイナが心の障壁を張って解析を拒否しているとしか思えないんだけど……」
「あ……あはははは……」
彼女は呆然と僕を見つめながら、乾いた笑いをこぼしてきた。
まったくっ……やっぱり能力掛けられるの気にしてたんじゃないか。話は前後しちゃうけど、これも説明しようと思っていたことではある。こっちから先に説明するか。
僕は今見えたものをまた紙に記載してレイナに渡した。
「はい。これが今見えたレイナの情報だね」
「あら~……」
レイナは引きつった笑みを見せながら僕から受け取った紙を見ている。紙に羅列されている”測定不可”の文字を見て自分でも呆れているようだ。
「……これって私が抵抗したからこういう風になっちゃったの?」
レイナが申し訳なさそうに僕に聞いてきた。
彼女にも壁を張る理由があるんだろう。そんなことで僕は怒らないし、聞かれたくない事を無理に聞き出そうとも思わない。
僕はさして気にしてない風を装い彼女に返答した。
「まあ、そうだね。これが人や動物にアナライズを掛けた時の難しさでもあるんだ」
「INTが多い相手程解析は難しくなるんだけどその人の”意思の状態”によっても結果が全く変わってくるんだ」
「へえ……」
レイナが紙を見ながら頷く。
僕は彼女のほっとため息をついた所を見逃さなかった。MP"10"で掛けた時にはアナライズ結果に”スキル欄”は表示されていない。
やっぱり気になっていたのはスキルなんだね……
僕は内心彼女のタブーを確信した。なぜか知らないけど、彼女はスキルを見られるのを嫌がっているようだ。
ただ、彼女のプライマリースキルを僕は知っているし、セカンダリースキルはまだ習得すらしていない。そうなると消去法で思い当たるものと言えばタレントスキルだろう。
でも、流石にこれを聞くのは藪蛇だよな……
……
……まあ、とにかく彼女もMP"10"で見られてしまう項目については予測が付いたはずだ。先ほどよりはアナライズをこれで受け入れやすくなっただろう。
僕は紙をまじまじとみていたレイナにもう一度尋ねてみた。
「ねえレイナ。もう一回同じ条件で掛けてもいいかい?」
レイナは紙から目線をこちらに移すと、やや間をあけて答えてきた。
「あ……うん。大丈夫だけど、どうして?」
「もう一回やってみて、結果が変わるところを見せたいんだよ」
「レイナもさっきよりはちょっと気を抜いてくれると嬉しい」
「……わかったわ」
レイナは今度はさしたる抵抗もなく承諾の言葉を口にした。
僕はそれを受けて再度アナライズを発動する。
フォン……
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アナライズ結果【10】
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氏名:遠坂 玲奈(とうさか れいな)
種族:人
年齢:18
身長:17.5cm
体重:測定不可
Lv:2
HP:5.5
MP:8
STR:3.6
DEF:1.9
INT:1.4
VIT:2.4
CRI:0.6
DEX:2.0
AGI:5.4
LUK:1.1
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僕の網膜に再度彼女の情報が表示された。どうやら今度は比較的上手くアナライズが入ったようだ。
一部まだ測定不可なところがあるけど、そこは触れないでおこう……
僕は結果をまた記載して彼女に渡した。
「どうだい?今度は良く結果が表示されているだろう?」
「確かに……さっきと違ってよく表示されているわね」
彼女は結果を見て少々驚きの声を上げた。同じMPでもここまで差が変わることに驚いているようだ。
「そう、これが”意思の力”によるランダム性だね」
「例えINTが多くても掛けられる張本人が精神的に無防備なら簡単にステータスを解析できるし、逆に少なくても抵抗すればなかなか解析できないんだ」
「ただし、魔法効果が高いアナライズを掛けられてしまった場合はINTが少ない状態だといくら抵抗しても見られてしまう」
「そこは注意が必要だね」
「なるほど、よく分かったわ」
……実は今の僕でもMP"30"以上でアナライズを掛ければスキルやバッドステータスなんかも表示対象になってくる。
また、それ以上多くのMPを注げば、本人の持ち物や個人情報なんかも分かるだろう。流石にそれくらいの魔法効果があれば今のレイナが精神的に抵抗しようがステータスを解析することは容易だ。でも、流石にそれをする度胸は僕にはない。
まだ、死にたくないしな……(遠い目)
彼女はそのまま2つの紙を見比べていたが、納得が言ったのか僕にお礼を言ってきた。
「エノク、ありがとう。おかげで結果についてはかなりイメージが出来たと思う」
「本当?良かった」
「でも、この能力。とっても恐ろしい能力ね……」
「そ……そうかな?凄い有用な能力ではあると思うけど……」
「いや、超恐ろしいわよ……使いこなせば相手の長所や弱点が見抜けるって事でしょ?」
「いやらしい能力ったらありゃしないわよ……」
い……いやらしぃ!!?
ガクッ……
僕は今度こそ膝から床に崩れ落ちた……
「ちょっとぉ~~~~!!」
「だからエノクの事じゃないって言ってんでしょうがぁあああああ」
レイナの絶叫が辺りにこだました。
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