第6話 生まれ変わったなら

 突然伊織がぽつりと言った。


「生まれ変わったら、僕と結婚してくれますか」


「来世があるなら、もう結婚はしたくないわ。いやというほど苦労したもの」


「では、1年に一度のデートでは?」


 美月は、伊織の可愛さにほほえんだ。


「そうね……一年に一度、ただ何も考えずに星空を眺めて、この「鵲」のお菓子を食べながら笑いあっている、そんなデートならね」


「待つよ」


「本気?」


「これ、僕の短冊。みせてあげる」


 伊織は、医局の窓辺に寄り、月光の下に薄い紫色の短冊を透かした。銀に輝くひかりを浴びた短冊に、思わず美月も近寄って手に取る。


「待ち人を永遠に待つことが報われますように」


 美月は我慢できなかった。伊織の優しさ、汚れて望まない結婚をして本当の恋を拒み続ける自分の情けなさ……全てがしずくとなり、美月の茶色みを帯びた瞳からぽたりと落ちた。その涙には、月が映って鵲の腹のような霜の色をしていた。


「牛込……もっと早く、運命が変わっていたなら、私……あなたを……」


「変えよう。運命を変えるんだ。僕たちならできる。今ならできる」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る