第39話 ユウとリン、競輪見学

ある日、リンが言った。


「ねえ、ユウ、一度競輪見に行ってみない?」


へっ?! とユウは思った。競輪といえば、ギャンブルというイメージしかない。正直、競輪場に行くのが怖い。なんで、いきなりそんなことを言うのか、リンに尋ねた。


リンは、ヒマな時はネットで自転車のあれこれを見ている。ツールドフランスだとか、BMXだとかの動画を見ているうちに、競輪の動画を見て一度生で見てみたいと思ったらしい。


ユウとしては気乗りしなかったが、リンが一度行けば満足すると思うと言うのと、リン1人だけで行かせるのも心配なので、仕方なく同行することにした。


ユウの住んでいる辺りだと、京王閣けいおうかく競輪場と西武園せいぶえん競輪場がある。どちらかといえば、西武園の方が近いのだが、ユウが途中にある深大寺じんだいじに寄りたいということで京王閣に行くことになった。


京王閣の開催日の日曜日、ユウとリンは早目に家を出た。まず深大寺に参拝する。ユウは今日の競輪場行きが無事終わるよう、お祈りした。その後、参道の茶店で2人であんみつを食べる。ユウは深大寺に来ると、これが楽しみだった。満足すると、多摩川沿いにある京王閣に向けて走り出す。


京王閣競輪場は思ってたより、きれいだった。が、中にいる人はほとんど中年以上の男性で、ユウの通う女子大とは対極の光景だった。有料の観覧席に座る。リンが競輪新聞を買ってきて読んでいるが、さっぱりわからないという。2人とも、車券は買わず、見学に徹することにした。


そうこうしているうちに、最初のレースが始まった。選手たちがいくつかの隊列でバンクを進んで行く。意外と遅いんだな、とユウが思ったその時、鐘が鳴って、選手が猛然と走り出した。そのすごい迫力にあっけにとられているうちに、レースは終わった。


ユウは、競輪の自転車が興味深かった。前傾姿勢が強い。ブレーキが付いておらず、ペダルを漕がなくても後輪が空転する機能がない、つまりフリーホイールがついてないらしい。リンが、固定ギヤっていうのよと教えてくれた。


3レースほど終わって、リンは、もういいよと言った。満足したらしい。ユウもレースは面白いが、とにかく競輪場にいるのが落ち着かない。もう2レースを見て京王閣を後にした。


カフェでコーヒーを飲みながら、リンが、今日はつきあわせちゃってゴメンね。と言った。ユウは競輪場の雰囲気にはなじめなかったが、レースは面白かったと答えた。


その後、ユウとリンが競輪場に行くことはなかったが、ユウはテレビで競輪の中継があると、時折見るようになったのだった。

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