7月~貴女の魔法使いに~

「海、ですか?」

夏の日差しが照りつけるある日。僕の仕える屋敷の若き主である女性は言った。「ええ」

なんでも、やっと取れた休暇を使って、ご友人様たちと海へ旅行に行くらしい。

海に行くのだから水着が必要。だから僕に声をかけた。僕は彼女の服飾品の管理を任される、スタイリストのような立場だから。

「リクエストはありません。あなたのセンスを信頼していますよ」

「わかりました。あの御方もご一緒ならば、貴女を一番美しく見せるものを選ばなければですね」

「そ、それは!」

彼女は頬を朱に染める。自分で言っておいて、胸が痛むのがわかった。

想いを寄せる相手には、美しい姿を見て欲しいもの。それは僕も同じ。

だから僕は笑顔を装備して、貴女の魔法使いになりましょう。

魔法使いは姫と踊ることはできないけれど、それで貴女の笑顔が見られるならば。「まあ良いです。頼みましたよ」

僕は胸の痛みを魔法に変えて、美しい貴女を王子のもとへお送りしましょう。

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