つきがたり

氷月

4月~桜吹雪の中で~

一年前のあの日、私たちが出会ったのは桜並木の終着点だった。

つい先日まで満開だった桜の花は、春の暖かさと一緒にやって来た突風によってひらひらと舞い踊る。

目的地への目印を見つけられず途方に暮れていた私に、あなたは声をかけてくれた。「お困りですか?」と、とても優しい声色で。

「目的地が見つからなくて。緑の大きな看板の近く、って言われたんですけど」「その看板ならあそこに見えますよ。良ければ近くまで案内しましょうか?」

二人で桜吹雪の中を歩いているとあなたは言った。

「あの看板、いい色ですよね。優しいのに生命の力強さ感じる色っていうか」

色をそんな風に説明する人に初めて会った。面白い人だなって、あなたの優しい声で私の知らない世界を教えて欲しいって思った。

ねえ。色のない世界に生きる私に、世界の色を教えて。

あなたが見たままの色を、あなたの言葉で。

「あの桜の花はどんな色をしているの?」

初めて会ったあの日のように。

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