僕らはトライを狙ってる

観音寺 和

第1話 僕らが始めた理由 荒川君の場合

「君、部活はなにするの?」

 昼休みに校長室の清掃をしていた時だった。

 不意に校長先生に声をかけられたんだ。


 志望校を見事に玉砕し、滑り止めで受かった私立高校。

 志望校に行けなかったことで、しばらく落ち込んでいたけれど、入学式を終えて通常の授業を受ける頃になると、まぁ、こんなもんかと気持ちの整理ができてきた…

 そんな時だった。


 週に一回当番制で、5人位のグループで学校の施設なんかを清掃する日があるのだけど、僕、荒川あらかわ 大河たいがが一番最初に当たったのが校長室だった。


 校長室(豪華!)を緊張しながら清掃していた時に、不意に校長に声をかけられたんだ。

 キョロキョロと周りを見回す僕に(だって、他の人に声かけた可能性もあったから…)

「君だよ、君!」と校長先生はにっこりと笑いながら、気さくに声をかけてくれたんだ。


「君、結構背が高いね、バスケかバレーボールやってた感じかな?」

「いえ、僕はどんくさいので球技は無理です…」

 身長182センチ体重58キロ。いわゆるヒョロガリ。


 中学時代は陸上部だったけど、高校入ったら何か陸上以外の別の事をやりたいと考えていた。

 ただ、球技に関しては全くやる気はなかったんだ。

 だって、とにかく僕は破滅的なまでにどんくさいんだよ。

 基礎体力はそこそこなんだけど、とにかく僕が球技をやると、総てがぎこちなく、生まれたての小鹿の様になってしまう。


 ちなみに、体育の授業でやるバスケはドリブル出来ないから、ずっとゴール下でリバウンド要員(辛うじてリバウンドは取れた)

 バレーボールに至っては、いつも一人時間差(ボールにはもちろん触れない)みたいになってしまう体たらく…。


 中学時代の黒歴史が走馬灯の様に僕の頭の中に浮かんだ。

(球技は嫌だぁ~!怖い!)

 もうトラウマレベルだ。


「うちの高校はスポーツに力を入れてるからね、スポーツやらないと損だよ」

 僕の思いは関係無しに校長は学校の施設の充実ぶりを力説する。


「バスケやバレーが駄目なら、ラグビーなんかどう?」


「校長先生、ラグビーも球技です…」


「あ、そうだったね、わはは!まぁ、これから体験入部とかで色々見てみるといいよ!」

 校長は僕にそう言うと、ターゲットを僕から他の人に変えてまた同じように声をかけていたようだった。

 どこまで本気かわからない校長先生だった…


 掃除が終わり教室に戻ると、清掃分担場所の話で持ちきりだった。


 理科準備室の標本がキモかったとか、放送室の機材が凄かったとか、各々が初めて行った清掃場所についての情報を交換し、いつか自分が行ったときのために、役に立つのかどうかもわからないけど、情報のやり取りをしたのだった。


「トラちゃんはどこの清掃だったん?」


 となりの席で仲良くなった川中島かわなかじま 晴臣はるおみ君が話しかけてきた。

 ちなみに「トラちゃん」とは僕につけられたあだ名だ。

「大河」たいが→タイガー→虎→寅さん→トラちゃん、と言う感じで、川中島くんにあだ名で呼ばれることになった。


「僕は校長室の清掃だったよ。なんか机とか椅子とか、なんか部屋に豪華な物がいっぱいあって、壊したらやばいなーって緊張しちゃったよ。ちなみに川中島君はどこの清掃だったの?」


「俺は保健室」少しイタズラっぽく笑いながら、川中島君が僕に教えてくれた。


「保健室かぁ~。保健室も緊張しそうだなぁ」頭の中では病院の診察室のイメージが思い浮かび、僕は素直な感想を口にした。


「川中島君、保健室って確か清掃場所に無かったと思うんだけど…」

 僕の後ろから入間いるま 奈奈ななさんが話しかけてきた。


「奈奈さんは鋭いねぇ。ハナマルをあげやう」おどけながら川中島君が空中にハナマルを描く。


「俺の今回の掃除当番は玄関だったけど、保健室でお昼寝してしまい、サボってしまいましたとさ」おどけながらにっこりと僕らに微笑みかける川中島君。


「玄関掃除は広いでしょ、複数グループでやるから、サボってもバレないと兄貴に聞いたんさ」

「川中島君のお兄さんもこの高校なの?」奈奈さんが質問したが、僕も興味ある内容だった。

「うん、三年にいるよ。この高校は在校生に兄弟がいると入学金とかが安くなるから、無理やり親に専願で受験させられたんよ」


「まぁ、ここは全教室に電子黒板とかエアコン完備だし、校舎はキレイだし、部活動も活発だし、特進クラスとかもあって保護者にも評判がいいらしいよね。

 それで入学金も安いなら親御さんも入れたがるのはわかる気がする~

 あ、ところで二人は部活はもう決めたの?

 ちなみに私は茶道部とテニス部の掛け持ちでーす!」

 奈奈さんに言われて校長室でのやり取りを思いだし、二人に面白おかしく話をした。


「球技は苦手って言ってるのに、ラグビー勧めるって、校長先生も面白い人ね」と言う奈奈さん。

 川中島君はちょっと違った反応で、「いや、ラグビーは球技は球技だけど、格闘技みたいなもんだからね。校長先生もボケてるわけじゃないと思うよ」

 そしてにっこり笑いながら

「ちなみにさっき話題に上ったうちの兄貴はラグビー部だよ」


「へぇー、お兄さんかぁ。興味あるなー。川中島君とお兄さんて似てる?」


「どうかなー。昔は似てると言われたけど、最近はあまり言われないなー。トラちゃん、なんなら放課後に、体験入部とか言って一緒にラグビー部のうちの兄貴を見に行ってみる?」


「面白そうねー。私も体験入部マネージャー希望とか言って冷やかしでいってもいい?」

 なんか川中島君の提案に奈奈さんも乗り気だ。

 目的が、川中島君のお兄さんを見に行くというのはどうかと思うけど、僕だけで行くわけじゃないし大丈夫か。

 これが僕、荒川 大河とラグビーの出会いのきっかけだった。

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