【番外編】夏 「ちょっと流れ星でも観に行きませんか?」(7)馬野渓からの帰路
『立秋を過ぎたとは言え、まだまだ残暑が厳しい夏の夜は青山高原がいい。ちょっと遠出をして流れ星でも見に行こか……』
恥ずかしかったけど、誰もいいひんし思いっきり叫べた。
「私もありがとう、和くん。今日来て良かったわぁ」
「そう言うてくれると、僕も嬉しいなぁ」
なんかめっちゃくちゃ嬉しい。今バイクに乗ったら高速でコーナーを攻めまくってしまうで。転倒しても笑ろてそう!
「それに、流れ星もまた見に来よう」
「うん、ええで。そやけど今度はふたご座流星群ぐらいかなぁ」
「ふたご座流星群?」
「うん」
「なんかええやん。私、それも見てみたい」
「うーん。でも12月中旬やし寒いでぇ」
「そっかぁ」
「まぁ、またそん時に考えよ。冬の方が星が綺麗に見えるし」
「うん! 楽しみにしてる」
「よっしゃぁ。ほんならそろそろ帰ろか」
「うん、そうしよ」
シュラフが夜露で少し湿ってきてる。
流星もぎょうさん見られたし告白も出来たし……、ええ気分で帰れるわ。
「そや、帰りにちょっと寄り道して行くわ」
「えっ」
もしかしてなんか勘違いしてへんかぁ。
「ちゃうねん。寄り道って言うか帰りに通るんやけどな。まぁ夜やし、なんも見えへんかも知れんけど取って置きの場所があるねん」
「そんなぁん」
「うん」
僕らは荷物を片付けて出発の準備をする。そうしてる間に時刻は3時を回った。青山高原にはもう、バイクのエキゾーストノートや車のタイヤの音も聞こえへん。
ひとみを後ろに乗せてエンジンを掛け、2、3回吹かして走り出す。
駐車場を右に出て緩やかな上りの直線で一気に加速し、左右のS字カーブに入る。立ち上がりで再度加速して大きなカーブを曲り、減速しながら下り坂を走る。
風力発電の塔が幾つか見えてきたら更に減速し、一気に50メートル程標高を下げる。
小さなカーブを曲りながら「航空自衛隊笠取山分屯基地」の入り口を過ぎたら、左へ下って行く細い道の手前で停まる。
「ひとみ。ここから狭い険しい道に入るし、しっかり掴まっといてなぁ」
「うん、分かった」
「あっ。それから、もしかしたら上から木の枝が垂れ下がってるかも知れんし気ぃ付けてや」
「うん!」
青山高原道路から狭い道に入って奥馬野の集落を目指す。
一応舗装はされてるけど、道には落石や折れた木の枝や枯れ葉がいっぱい落ちてるし余りスピードを出さずに慎重に走る。もちろん、灯りはヘッドライトのみや。
所々に湧き水も流れてる。道は狭いしガードレールは無いから右手に流れてる川に落ちてしもたら怪我をするやろう。
それに昼でも直射日光が当たらん道は苔が生えてるとこがある。油断してると苔で滑ってフロントタイヤを取られるから細心の注意が必要や。
緊張しながら標高を一気に150メート程下る。途中、折れた枝を踏んだんやろ、バキっと言う音が何度か聞こえた。
更にどんどん下っていくと右側に川が見えてくる。けっこうな水流で、水温も低いんやろう、ヘッドライトに白い霧の様なもんが映し出される。
暗くて一人やとちょっと怖いけど、後ろにはひとみが居てくれるから安心や。
傾斜は緩やかになるけど、かなりきついカーブが続くんでスピードは控えめに。
すると、ひとみが、
「きゃ」
と小さい声を出す。何事やと思て停まった。
「どうしたん?」
「ぶら下がってた枝に当たってん」
「大丈夫?」
「うん、ヘルメットやし大丈夫」
「そっかぁ。ほんなら行くで。もう少しや」
「うん」
再び走り出す。川の中には大きな岩があって水の流れを遮ってる。もう少しや。
右から流れてくる小さな支流と合流する辺りで僕はバイクを停めた。
「ここが馬野渓って言うとこやねん」
バイクを降りてエンジンを切り、ヘルメットを取ると川を流れる水の音が耳に飛び込んでくる。それと共に川の水で冷やされためっちゃ涼しい風が吹いてきた。
「わー、涼しいねぇー」
「うん。ここが取って置きの場所や。昼間の暑い時に来たら最高に気持ちええんやけどな」
「ふーん」
僕はヘッドライトも消してみた。
「うわぁ」
ひとみが驚いた様に灯りは全く無いし、なんも見えへん。木々の梢で星空も隠れてる。
「真っ暗闇やね」
「うん。目が慣れたら見えてくるよ」
イグニッションランプの灯りで微かにひとみの顔が見える。
その時ひとみが声を上げて僕にしがみついてきた。僕もびっくりしたけど、ひとみの柔らかさが腕に伝わってきた。
「いやー、なんか動いたぁ。なんか居るー」
僕には分からんかったけど、余りにもひとみが怯えてたんでヘッドライトを付けてみた。
「ぎやぁーー」
ひとみの悲鳴が谷間に響く。僕もびっくりしてもた。
そのひとみの悲鳴に驚いたんか茶色い動物が山の方へと逃げていった。
「あはは、あれは鹿や」
「鹿さん」
「そうや。野生の鹿や」
「なんや、びっくりしたなぁ」
「ははは。鹿の方がびっくりしてたで」
「もう、そんなん言わんとってやぁ。めっちゃ怖かったんやし」
「分かったわぁ。ほんなら帰ろか」
「うん。ここは明るい時に来たいよー」
「そうやな」
エンジンを掛け、再び走り出す。引き続き狭い道を下りながら走って行くと、谷間から少しずつ広い所に出てくる。周りに田んぼが見えてくると、そろそろ奥馬野の集落や。道も真っ直ぐになってくる。
そやけどスピードは出せへん。集落に入る手前に農作物を鹿から守るためのフェンスがあるからや。
「あれ、行き止まり?」
「大丈夫。このフェンスは動かせるから」
フェンスの金具を外してバイクを移動すると、ひとみが元の様に直してくれた。これで鹿は侵入できん。
再びバイクを走らせ、T字路に出たら右折して県道2号線に入る。ここまで来ると標高300メートル位やから風は少し生温かくなってきてる。
この県道2号線を走り、服部川の橋を渡ったら左折して国道163号線に入る。通称「伊賀街道」を道なりに谷間を走って行くと暫くして平野部に出る。そのまま道なりに走ると名阪国道(無料区間)の中瀬ICに着く。
このまま国道163号線を走ってもええけど、伊賀の市街地をクネクネ走る事になるから、ここからは名阪国道を走る。
中瀬ICから4つ目の大内ICで左に降りる。一時停止をして右折し、側道に合流したら直ぐの十字路を右折し名阪国道の下を潜る。すると目の前は往路で休憩した「名阪上野忍者ドライブイン」や。
ここで休憩をして行こう。
そろそろ空が明るくなってくる時間。ひとみは大分眠たそうな顔をしてる。
「寝たらあかんで」
「うん、分かってる」
「城陽で朝ご飯を食べてから家に送って行くわ」
「うん。ありがとう」
ドライブインを出て右に進み、右折して伊賀コリドールロードを走る。
田んぼの中の大きなクランクを通り過ぎたら初めの信号で左折し、大和街道に入る。直ぐに国道163号線に再合流するので、往路を逆に戻って行く。
早朝なんでまだ交通量は少ない。カーブに気を付けて快適に飛ばして、上狛四丁町交差点(京都府木津川市山城町)で右折し国道24号線に入る。
城陽新池交差点(京都府城陽市)ではそのまま直進し、府道69号線を進む。そこから1.6キロほど走ると右手に24時間営業の牛丼屋(京都府城陽市)があるので、そこで朝ご飯を頂く。
食べ終わった後は、ひたすら府道69号線を北上。京滋バイパスの下の交差点(京都府宇治市)も直進して再び国道24号線を走り、京都市伏見区に入って観月橋で宇治川を越えると桃山や。
ここでひとみを家に送り、盆明けの職場での再会を楽しみにお別れをする。
「そしたら、また」
「うん、気を付けてね」
「おう。おやすみー」
「おやすみー」
僕はまだ寝られない。取り敢えず京阪出町柳駅前まで戻ろう。
再び国道24号線を北上するけど、往路で通った師団街道は一方通行があるんで、そのまま国道24号線を走る。
鴨川を渡ったとこの阪神高速8号京都線の下の交差点(京都市南区)で右折し、河原町十条の交差点も右折して十条通りを東に進む。
再度鴨川を渡り師団街道との交差点(京都市東山区)に来たら左折して、あとは真っ直ぐ京阪出町柳駅前(京都市左京区)まで走るだけ。
大きな収穫を得られた流れ星観測ツーリングやった。満足、満足。
さー下宿に戻って熟睡や!
【番外編】おしまい
※走行データ
第6駐車場-馬野渓 約 6.6km
馬野渓-ドライブイン 約21.8km
ドライブイン-牛丼屋(京都府城陽市) 約47.6km
牛丼屋-出町柳駅(京都市左京区) 約21.1km
※気温データ(ある日の実際のデータ)
青山高原三角点(三重県津市) 22度
馬野渓(三重県伊賀市) 20度
中瀬IC(三重県伊賀市) 26度
※青山高原の公衆トイレ
三角点駐車場、第1、第3、第4駐車場にあります。
※ふたご座流星群のデータ
毎年12月14日頃が極大で1時間に45個程見える事があります。
※ペルセウス座流星群のデータ
ペルセウス座流星群は毎年8月13日前後に出現してますが、ここ数年で「好条件」にて観測できそうな日を以下に示します。
(1)2018年は8月13日の10時が極大ですが日の出後なので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでがお薦めです。月齢も1.73と月明かりもなく比較的良い条件で観られるでしょう。
(2)2021年は8月13日の4時が極大です。月齢は4.56ですが22時頃には沈みますので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでが、かなり良い条件で観られるでしょう。
(3)2024年は8月12日の23時が極大です。月齢は7.62ですが23時頃には沈みますので、12日の夜半から13日の未明に掛けてが、かなりの良い条件で観られるでしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます