第28話 呉越同舟
新型腸炎ウィルスに見舞われた世界、スター合衆国では全国規模の冷凍食品強盗事件がヒーロー達の尽力により多大な被害を出しつつも解決した。
だが、ヒーローとヴィラン双方に損害が著しく誰も彼もが参っていた。
ヴィランは悪事を働けない、ヒーローも悪事に立ち向かう所か病気のせいで表稼業が潰れたり家族の介護などの生活に困窮する者も出てきて平和を守るどころではなくなってしまっていた。
世界は今、病によって困窮した歪な平和に包まれていた。
世界の平和は望ましい事ではあるが、こんな平和は欲しくない。
人間と言う物は我がままで欲張りである、誰も彼も己の好悪が物差しだ。
善も悪も一般市民もつまらない世の中は嫌だと言う思いで一つになっていた。
ヴィラン刑務所内のディーラーの牢では、仮面で表情を隠しつつも下痢が止まらないディーラーがトイレをしながらウェブ会議をしていた。
「良いでしょう事情が事情です、私もこの有様っ! ……失礼、ヒーローも悪党も
こんなご時世じゃ格好つかないでしょう? 私はヒーローもヴィランも格好良くあるべきだと思うんで、す~~っ!」
ヴィラン刑務所内でも新型腸炎ウィルスが蔓延り、ディーラーも下痢が止まらない状態で自分が催している所を隠しながら会議に参加していた。
ウェブの向こうでも、ヒーロー側の代表団が時折離席してるとグダグダな会議が進行していた。
「ヒーローの癖に悪党の上前はねようなんてとんでもない人達ですが……お金払います、どうにかしてこの下痢にまみれた世界を綺麗にして下さい~~~っ!」
直接の戦闘能力は低めだが稀代の悪党であるディーラーが音を上げた。
下痢に苦しみながらも、自分が悪党達に渡りを付けて金を出すので情勢が改善し景気が回復するまでの間は休戦協定を結び善悪混合した呉越同舟の組織を設立し世界を救おうとヒーロー側の重鎮達にディーラーは提案した。
元気で健康な世界があってこそ、ヴィランも悪さができるしヒーローも世界を守れるという打算ではあったがヒーローも一般市民もディーラーの提案に乗った。
と言うか乗らざるを得なかった、悪党と取引をするという事の危うさをヒーロー達は知っていたが善も悪もひっくるめて世界の危機ならば猫の手も借りたかった。
かくして、スター合衆国で史上初のヒーローとヴィランの混合組織である世界救済
を目的としたチーム『スクランブル・エッグ』が誕生した。
スクランブル・エッグの最初の任務は、世界各地へヒーローやヴィランが食料を配る無償の給食サービス『ヒーロー・イーツ作戦』であった。
「ヒャッハ~♪ 食料のお届けだ~~~っ♪」
背中に食料を背負い、目出し帽を被った迷彩服姿の男がジャングルの奥地にある村へと降り立つ。
男に続いて今度は巨大なコンテナを抱えて紫色の肌に短髪の巨漢が轟音を上げて着地した。
「……ヒーロー・イーツ、物資も薬もお届けだ」
紫の巨漢が担ぎ上げたコンテナを下すとコンテナが簡素なプレハブへと変形した。
轟音に驚いた住人達が恐る恐る家から出て来た。
「おお、救いの手がやって来た」
村の長らしき老人が大地にひれ伏した。
「うそ、パープルマンだ~っ♪」
紫の巨漢を見た子供は喜んだ。
「感謝は後だ、飯を食いな!」
今度は目出し帽の男がボックスを床に降ろす、するとボックスが開いて変形して行きテーブルや椅子などが浮き上がりフードコートが形成された。
「風呂もある、洗濯もできる、医者もいる、元気を取り戻せ」
パープルマンの大声に村の住人達は歓声を上げてやって来た。
「住人達の面倒を見るぞ、サボるなよ目出し帽?」
「わかってるよ、紫の旦那も加減しろよな」
この二人、パープルマンはヒーローで目出し帽は捕らえられたヴィランと言う
間柄であった。
スクランブル・エッグに参加した者達は毎回ランダムにチームアップされる。
今回のパープルマンと目出し帽の組み合わせも偶然に逮捕した者とされた者が組んだと言う形になった。
世界各地のヒーローとヴィランがスクランブル・エッグに加入し惑星規模で行われたヒーロー・イーツ作戦は歓迎された。
スクランブル・エッグは好調なスタートを切れたと言える。
「く~~~~っ! 人のお金を湯水のように使って~~~! 景気が回復したら
絶対回収してやる~~~っ!」
牢の中、新聞を読みつつトイレで下痢と戦いながらディーラーは吠えた。
自分が提案しておきながらも、スクランブル・エッグが活躍するほど自分の金を湯水の如くガンガン使われて財産を失って行く事を嘆くディーラー。
「格好つける事の代償がこれじゃあ、胃袋も財布も痛すぎます!
今に見てろよヒーロー共っ、お前らは大嫌いな悪党の金で飯食ってんだからなっ!」
ディーラーの叫びが牢内に木霊し、トイレの水と同時に流されて行った。
果たして、ディーラーは再び悪のカリスマとして立ち上がれるのか?
転んでもただでは起きないヴィランにも、この先の未来は読めなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます