第115話 皇帝 出陣
ミサワ領とランカ領を奪還されペク国まで後退したヴェルガノン帝国軍……ただでさえ無様な醜態をさらすティアラに追い打ちがかかる。
「!! ヴェイクがやられただと!? 確かなのか!?」
部下からの報告にティアラは大いに戸惑う。まさかあいつがやられるとは思っていなかったのだ。
「……くっ! どうすれば!」
「苦戦しているようだな、ティアラ」
歯ぎしりばかりが強くなる彼女の前に並みの男より頭二つ抜けた筋肉の塊とでも言うべき巨体をした男が山を下りてやってきた。
「デューク様! どうしてここに!?」
「苦戦していると聞いて援軍に来たんだ。ティアラ、しくじったそうだな。まぁいい、お前は下がれ。
「! 危険です! 私がやります!」
「ティアラ、下がれと言ったのが聞こえなかったのか? 私があんな連中にやられると思ったのか?」
不気味なまでに低い声で配下をにらみつけるように言う。
「い、いえ。そこまでは……」
「なら退却しろ。時間は稼ぐからすぐに行け」
「ぎょ、御意!」
「ティアラ隊の者に告ぐ、これよりお前たちは私の命令に従って動け」
ハシバ国軍が崩した城壁を乗り越え、ペク国内部での戦闘に突入する。それを見てもデュークは冷静そのものであり、的確に指示を飛ばす。
「我に続け。立ちはだかる者は何者であろうが斬って捨てよ」
ヴェルガノン帝国皇帝は敵に身体を横向きになるような姿勢を取り、持っている武器である『剣の形をした鋼の塊』で全身を隠すように構える。銃弾や光の魔法を食らっても武器はもちろん皇帝の身体には傷一つつかなかった。
反撃でその巨体と巨大な武器を持っているにも関わらず矢のように駆け、弾幕の隙間をかいくぐり剣をふるう。1振りで1度に兵士や僧兵3人が鎧ごと胴体を寸断され、2振り目で2名が犠牲者に追加される。全員即死だ。
皇帝が持つ剣、いや『剣の形をした鋼の塊』には幾重にも防御魔法が付与されている。それにより物理的な攻撃はもちろん、あらゆる魔法を防ぐ無敵の盾となる。
と同時に付与魔法により硬度が増すことで鋼はおろかミスリルの防具すら簡単に叩き斬る事が可能になっている。彼にとっては防御魔法すら敵を斬るための武器となるのだ。
「この程度か。雑兵共め」
「ひ、ひるむな! 撃て、撃てぇ!」
ハシバ国兵士はその強さに大いにどよめくがまだ踏ん張る。すぐに次弾が発射された。
「!!」
「へっへぇ! 頭に命中! 俺が仕留め……な、何だ!?」
兵士の一人がデュークの頭に弾丸を当てたが直後その傷から弾が飛び出しほんの数秒で傷がふさがってしまった。
「な、何だぁ!? 頭を撃ったんだぞ! 致命傷じゃねえのかよ!?」
「ぬるいな。ぬるすぎる」
皇帝はそう言って反撃で相手を仕留めた。
死の瘴気を帯びた皇帝が敵陣に深く斬り込み、次々と敵を彼の味方へと引き込んでいく。並の人間ではその身体に傷一つつけることが出来ずに相手はただただ空しく斬り殺されていく一方だ。
銃身をへし斬り、鎧ごと相手を切断する行為が、止まらない。
「や、やばい。逃げ……、!? な、何をする!?」
そうやって犠牲になった者たちが次々と不死者へと変わり、皇帝の味方になる。胴体が寸断された死体がはいずりながらもデュークをサポートするように生者の足をつかんで離さない。
「や、やめろ! やめろ! ひぃ! た、助け……」
悲鳴をあげようとしたハシバ国兵士は胴体を切断され、今度は皇帝の味方として援護に回った。
「ば、化け物だぁ!」
「ひ、ひぃい!」
雑兵は恐れ、逃げだす。普段の皇帝なら追い打ちをかけるところだが今回は
そこへ伝令兵がデュークにとって大事な知らせをもってやってくる。
「陛下! わが軍の撤退がほぼ完了しました! あとは我々だけです」
「わかった。交戦しつつ退却しろ」
「ハッ!」
皇帝は
「陛下! ご無事で!」
「だから言っただろ? あんな連中に後れは取らないと。これがあるからな」
皇帝はティアラに自らの身体を見せる。そこにはかつてマコトが使った不死化の施術に似たものが施されていた。
「不死化の施術を施したのですか。何も陛下自ら実験台にならなくても……」
古代エルフが
試作というよりは「実験機」とでもいうべきアルファ版が出来上がったので、今回デュークとヴェイクの身体に施していた。
ヴェイクは今一つ戦果をあげずに果ててしまったが、デュークにとっては今回の戦果に大いに役に立った。
「施術チームにはよくやった、上々の成果だ。と伝えとけ」
戦には負けたのはかなり痛いが、もし来なければもっと痛手は大きくなっただろう。最悪、ティアナたちが全滅してしまう可能性もあっただろう。それと比べればまだまし。彼はそう思うことにした。
【次回予告】
立て続けに作戦失敗に追い込まれるヴェルガノン帝国。それに見切りをつける者もあらわれた。
第116話 「裏切り者」
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