第109話 最初の勝利

「海路は解放できたか! 今度は陸路だ!」


 マコトはもうひと踏ん張りと部下に発破をかける。

 ハーピーの狙撃隊によりあらかた敵兵は片づいた、都市国家イルバーンとは目と鼻の先、城壁手前にある船が2隻並べる程度の海岸に船が来る。

 それらはマコトが言うには「揚陸艦」と言って迅速に部隊を上陸させる機能を持った船だった。


「接岸しろ! ヴァジュラとヴァジュラヘッドを出せ!」


 揚陸艦から兵士たちが次々と上陸していく。その中にはマコトが操縦するヴァジュラ1りょう、それに砲兵が操作するヴァジュラヘッドが2門あった。


(……ついに実戦か)


 マコトはヴァジュラ完成から今まで訓練に訓練を重ねてきたがそれでも緊張する。


「あの白い巨人を砲弾装填次第撃て!」


 マコトはヴァジュラを操縦しながら砲手に指示を出す。




 都市国家イルバーンには骨の巨人が迫っていた。

 ズシン、ズシンという重低音の足音とともに近づくにつれて、城壁を超える高さにまで大きくなっていくシルエットはイルバーン防衛隊員の心に圧迫感と絶望感を湧きあがらせる。

 莫大ばくだいな量のゾンビやスケルトンといった不死者アンデッドを城壁に送り込む攻城塔であり、城門を蹴り壊す破城槌でもある骨の巨人がイルバーンの城壁をつかもうとした、その瞬間!

 ヴァジュラとヴァジュラヘッドから放たれた砲弾、計三発が巨人の頭、胸部、わき腹を直撃、貫通した。

 巨人はぐらりとバランスを崩し、ズズーンという轟音を立てて崩れ落ちた。


「な、何だ!?」

「!! あれはハシバ国の軍旗だ!」

「すげえ。あんな兵器を隠し持ってるとは」


 イルバーン防衛隊に活気が戻った。




 砲弾を撃ったヴァジュラやヴァジュラヘッドを武装したゾンビの兵士が見ると海岸から上陸した生者目がけて突撃してくる。

 が、ハシバ国軍の兵士はそれを針の形をした銃剣で迎撃する。

 念のため前列の兵士の物はあらかじめ聖別をした素材で作られており、やろうと思えば死者の身体をたやすく貫く威力を持っており、時間稼ぎには十分な力を持っていた。

 後列の部隊から発射される弾丸……これもまた聖別された鉛製の品で不死者たちの頭を撃ちぬいていった。


「弾丸を装填次第撃って撃って撃ちまくれ! 生者の意地を見せろ!」


 マコトがヴァジュラの搭乗口から顔を出して部隊の尻を叩く。

 城壁の援護に向かった部隊と海岸に上陸した部隊との2隊で2方向からT字になるようにヴェルガノン軍の兵を射撃する。

 常に横から射撃を食らう形になるので急所である頭を守れりきれずにアンデッドの軍隊は次々と倒れていく。

 さらに死者の軍の攻城兵器である骨の巨人はヴァジュラとヴァジュラヘッドによる聖別された砲弾に撃ち抜かれ、城壁にたどり着くことなく全て力尽きていく。


 マコトらの参戦でイルバーン制圧戦は大きく動く。もし彼らによる救援が2時間、いや1時間でも遅かったら形勢を変えるまでには至らなかったであろう。援護が生きる形で届く、ギリギリのタイミングであった。


 陸での戦いが始まってしばらく。銃声が響く戦場は生者の側へとバランスは傾いていく。

 4体あった敵軍の白い巨人ボーンゴーレムは全て倒され、軍勢も半数が銃撃で打ち取られ陰りが見え始めていた。

 死んだ身であるがゆえに死を恐れぬ兵であるヴェルガノン帝国のゾンビやスケルトンであったが、それだけではどうにもならない差が生まれていた。

 そして……


「隊長! 敵軍、退却する模様です!」


 ヴェルガノン帝国軍が退却を始めた。指揮官の判断でこれ以上の戦いは損するだけ、とでも思ったのだろう。


「勝った! 勝ったぞ!」


 生者達は生き残れた喜びで雄たけびを上げる。

 これがハシバ国とヴェルガノン帝国との最初の戦いであった。




【次回予告】

海路を抑えられたヴェルガノン帝国。だがとっておきの策があった。


第110話 「死者の進撃」

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