第86話 侵攻 オレイカルコス連合

 ハシバ国の毎年夏の恒例行事として定着した慰民祭が終わった直後の、後アケリア歴1241年 7月5日。


「閣下! オレイカルコス連合の軍が我が国に向かって侵攻を開始しました! その数、およそ2400前後だと思われます」


 ハーピーによる偵察兵からの報告が上がる。


「分かった。各員に連絡、挙兵するぞ!」


 マコト率いるハシバ国は3400の軍勢で迎え撃つ。




「……破城槌に攻城ハシゴ、それに攻城塔を持ってるな。銃を持っているとはいえこの辺は変わりないなぁ」


 ハーピーたちが偵察しているのに気づき、ドワーフたちが空めがけて銃口を向ける。


「!! まずい! お前ら! にげ……」


 直後、何重にも重なった発砲音が響き、何匹ものハーピーが撃ち抜かれ落下する。


「だめだ! これ以上の偵察は無理だ! 帰還しろ!」


 偵察部隊長は仲間にそう指示して退却させていく。


「というわけで偵察はできたのですが被害が出てしまいまして……」

「わかった。偵察ご苦労だった。無茶はするな。全軍に野戦でカタを付けると通達してくれ。応戦するぞ!」


 横陣で攻めるオレイカルコス連合に対し、ハシバ国は魚鱗ぎょりんの陣で対抗する。

 この日のために用意した竹束の陰に隠れつつ進軍する。




「何じゃあ? あれは? 竹を束ねてるように見えるが……まぁいい! 撃て!」


 ドワーフの部隊長はそう指示し、彼らの持つ銃から横殴りの銃弾の雨が放たれる。

 竹束はダークエルフの付与魔法エンチャントにより強化されていたこともあり、それを受け止めることが出来た。


 銃弾を放った兵たちは持っている武器を立て、先から火薬や弾丸を詰めている。前情報通り、先込め式の銃だ。

 発砲後、つまりは弾丸装填中なのを機に、竹束の裏から一斉にカボチャたちを先頭に兵士たちが飛び出す。


「何じゃあいつら、魔術師カボチャ達を先頭に出してるぞ?」

「構うもんか! 前列は銃剣を装着! 迎撃しろ!」


 ドワーフの将が配下に指示を出す。彼らは銃の先に針のような銃剣を刺し、迎撃する。

 前列が銃身を槍のように使い接近戦をして時間を稼ぐ間に、後列の者が弾丸を装填して射撃するという流れだ。

 銃剣を装着して戦っている味方の援護をもらい、後ろのドワーフたちが銃弾を込め終え、放つ。




「シールド!」


 ここにきてジャック・オー・ランタン達が新兵器を披露する。彼らやその後方を守れる、透明な半球状の魔法で出来た半透明な壁が作られる。

 銃弾が着弾するとガラスと金属がこすれるような鋭い音がするが、銃弾は貫通せずに弾かれる。


「な、何じゃぁ!? 銃弾が通じんぞ!?」

「くそっ! 魔法だ! あいつら魔法を使ってやがる! あのカボチャ共を優先して狙え!」


 この世界においては比較的希少な魔術師をハシバ国は十分な数確保できている。その力は大きな戦力だ。

 魔法の壁に守られた兵士たちは安心して目の前の敵に専念できる。

 元々数で勝っていたこともあり、押していく。


「総員、曲射の構え! 放て!」


 エルフェン率いるダークエルフの弓兵隊の矢が降り注ぎ、


「総員! 尻尾を丸めるな! 俺に続け! 押し込むぞ!」


 アレックス率いるコボルドの部隊が敵陣に切り込む。

 そして……


「伝令! 戦線が突破され部隊が分断されてしまいました! 指揮系統に混乱が生じています!」

「クソッ! ……仕方ない! 全軍に退却命令を出せ!」


 ドワーフの軍隊を率いる総大将はそう決断を下した。




 戦いが終わって、戦場で散ったドワーフ兵たちが持っている銃を見て、マコトは安堵する。


「……ふぅ。よかった。みんな先込め式だ。元込め式の銃はまだできてないらしいな」

「閣下、そんなに『もとごめしき』とやらは脅威なのですか?」

「ああ。元込め式の銃の前では今のような先込め式の銃なんて子供のおもちゃ以下だな」

「……そこまで言いますか」


 前情報通り、まだ元込め式の銃は作られていないらしい。今なら勝てる。いや、今しか勝てない。

 マコトは戦に勝ったうれしさと、このままではいられないという不安を同時に抱えていた。




【次回予告】

敗戦したオレイカルコス連合。だがその長は安堵していた。

なぜなら……


第87話 「悪夢 現実に」

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