第57話 ワーシープ

 まだまだ暑いが暦の上では涼しくなり始めるとされる頃、マコトは商人から仕入れた神霊石2つを持って数カ月ぶりに召喚の儀を行う。

 魔法陣が「白く」輝いた。


(またノーマルか……)


 引きの悪さにはがゆい思いをした彼の目の前に現れたのは所々に羊のようなふわふわの毛を持つ獣人だった。


「とりあえず名前と、お前の望みを聞かせてくれ」

「ぼくはワーシープのドリーと言います。戦争でおうちが燃えちゃったので僕たちワーシープ仲間の新しいおうちを探してます。ふわぁ……あ、失礼。

 野菜が食べたいなんていう贅沢は言いません。雑草や牧草でもいいです。とにかく濡れる心配のないおうちが欲しいです」


 人間によく似ているがどことなく羊の特徴も少しある顔をした少年が願いをいう。


 ワーシープ。

 羊のようなふわふわの毛におおわれた獣人族の一種で、1日の大半を寝て過ごす人畜無害な存在だ。

 彼らの毛には眠りの魔力が込められており、この毛で作った寝具や寝間着は快眠を約束できるため高値で取引されており、毛目当てに彼らを飼育している者も多いとの事だ。


「よし、分かった。ここじゃ狭いからもっと広い所に行こう。ついてきてくれ」




「あれ、あなた? そのワーシープは何なの?」


 ドリーを連れたマコトを見てメリルが不思議そうに問う。


「ああ。今召喚したんだよ」

「そう。じゃあ赤ちゃん用の毛布を作ってくれない? ワーシープの毛を使った毛布は夜泣きに効くらしいから」

「へー、赤ちゃんですか。だったらぼくらの毛で作った毛布や寝間着は良く効きますよー。ふわぁ……あ、すいません」


 マコトはドリーと共に城前の広場にやってきた。そして持っていたもう1つの神霊石を使い、仲間を呼び出す。


「ドリーの仲間を呼びだせ!」


 マコトがそう言って神霊石を天にかざすと石は砕け、霧状の粒子となって辺りに漂う。霧が晴れると50名ほどのワーシープたちが姿を現した。


「ドリー、ここが新しいおうち?」

「やっとぬれなくても済むようになったかー」

「ふぅあーあ。眠い……」


 新たな国の住人達はおおむね肯定的に見てくれたようだ。


「お前の願いはかなえた。今度はお前の番だ。忠誠を誓ってくれないか?」


 マコトは慣れた手つきでスマホを取り出す。


「はい、良いですよ。ぼくはワーシープのドリー。寝ている間も王様に忠誠を誓います。今後ともよろしく」


 彼の胸から白い球状の光が飛び出し、スマホの中へと入っていった。

 一応ステータスは見たがマンドレイクのオヒシバと同じくらいで、兵士としてはまるで使い物にならないレベルだった。


「よーしお前ら、早速今日から品物の注文をするぞ。とりあえず残ってる毛をかき集めて赤ちゃん用の毛布を1枚織ってくれ。カネは割増しで払うから急いで作ってくれ」


 ワーシープたちは自分たちの毛の価値を理解しており、自分の手で毛を刈り、糸を紡ぎ、織って布にし、服を仕立てる者も多い。

 ドリーの仲間もそうで、自分たちで寝具や寝間着を作れるそうだ。




 城内に設けた仮の工房で作業する事、数日。無事に製品が出来上がり、納入された。


「メリル、出来たぞ。ワーシープの毛で作った毛布だ。ケンイチにかけてみろ」


 彼女は言われるがままベッドで泣きじゃくる息子にかけてみる。


「ウォギャア! ウォギャア! ウォ……ギ……クークー」


 効果はばつぐんだ。ベッドに寝かせようとしたとたんに泣きだすケンイチもほんの数秒で眠った。


「良かった。効いたみたいだな」

「ふぅ。この調子だと久しぶりに熟睡できそうね。以前は夜中でも平気で泣きだしてたから寝不足で仕方なかったのに。あなたからしても国の特産品が一つ増えて良かったわね」

「石材やレンガは良いとしてホルスタウロスの乳にワーシープの毛か。一応特産品と言えば特産品なんだが……何か違う気がするな」

「そうかしら?」


 メリルは真顔で返すがマコトにとっては理想となる国家像とはだいぶ違うものになっているのに違和感を感じていたという。



クルスの日記

後アケリア歴1239年 9月1日


 オヤジがまた配下を召喚したらしい。今度はワーシープとかいう羊のような魔物らしい。

 そいつらの毛で作った毛布でここ最近のケンイチは熟睡しているらしい。

 最近の母さんがイライラしなくなったのは夜泣きしないで熟睡できるせいか。




【次回予告】


平和だったハシバ国に、珍しく大事件が起こる。

それは国民の拉致未遂及び殺人未遂事件だった。

第58話「平和な国に事件発生」

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