第53話 慰民祭
「何だ?」
本格的な春を迎えポカポカ陽気が続くある日の朝、マコトが城を出るとその入り口辺りで人間とコボルドの農民、合わせて6名程度が城の正門を守る衛兵達と何かもめているようだ。
「オイ、何があった?」
「あ、閣下!」
マコトの姿を見るや農民たちは訴え出す。
「閣下! あなたは何回戦争を起こせば気が済むんですか!?」
「我々農民たちは作物の世話もしなくてはいけないのに毎年毎年戦争に駆り出されて、もうこれ以上に無い位疲弊しきっています!」
「閣下! 我々は閣下のために働いていますが毎年夏と冬に年2回も徴兵するのは酷ではありませんか!? 戦争続きで我々は心底疲れきっています!」
「閣下! もう我々は我慢の限界を超えています! これ以上戦争に付き合わされるのはまっぴらです!」
「閣下!」
「閣下!」
次々と不満を直訴した。言われた側は少し黙ってその言葉を
「お前たちの言いたいことは分かった。だが今後どうするかは王である俺と言えどすぐには決められない。後日配下と話し合って決める。もちろん君たちの意見は最大限受け入れるつもりだ。今日の所は下がってくれ」
国王であるマコトに直訴するとなると相当な覚悟をした上でのことだろう。王は彼らの話を真剣に聞いた後、農民たちを下がらせると同時に城の中へと戻っていった。
すぐに城へと帰ってきた主を見てディオールは何事かと尋ね、彼はついさっき起こった出来事を話す。
「フム、直訴ですか……閣下、今回の件、いかがなさるおつもりですかな?」
「確かに俺達は戦争してばっかりだからな。あいつらの気持ちも分からんわけじゃないな」
思い返してみると毎年夏と冬の2回、防衛戦、侵攻戦とあったが兵をかり出して戦争を続けていた。疲弊しているというのも納得がいく。
「何か良いアイディアは無いか? 彼らを満足させるような何かをしたい」
「うーむ……こればかりはすぐには思いつきませんな。私も他の者と一緒に知恵を絞りますが今回ばかりは良いアイディアが出ないかもしれませんな。あくまで私は軍人ですからなぁ」
珍しくディオールが弱音を吐いた。おそらく彼任せでは難しいだろう。
「あなた、何か悩み事でも?」
妊娠してから6カ月は経ってお腹がずいぶんと張ってきたメリルは渋い顔をしている夫の様子を見て声をかける。
「ああ、ちょっとな。国民たちをねぎらうにはどうすればいいのかちょっと考えてるところなんだ。まず今年の夏の出兵は取り止めるとして、その空いた期間に何かやりたい。お前も何かいいアイディアは無いか?」
「う~ん……いきなり言われてもちょっと思いつかないわね。そうだ、あなたが居たチキュウのニホン、でいいかしら? その異世界では夏はどうしてるの?」
「ああ。夏になると祭りをやってるな。お盆って言ってご先祖様の魂が帰ってくるのを出迎える風習があるんだ」
「ふ~ん」
マコトは自分の嫁に簡単に日本の風習を説明する、その時だった。
「待てよ……祭り? そうだ、祭りだ!」
マコトに
そのアイディアを披露したくて城中を駆け回り、自室で考え事をしていたディオールをつかまえる。
「閣下!? ずいぶんと騒々しいですが何がありましたか?」
「ディオール、思いついた! 祭りだ! 死んだ兵士への弔いと生きてる国民たちをねぎらう祭りを開こう!」
「ふーむ、祭りですか」
「そうだ。俺の国では「お盆」って言って夏になるとご先祖様の魂が帰ってきて、それを迎え入れてねぎらう風習が今でも残ってるんだ。
それと生きている国民へのねぎらいを組み合わせて祭りにしようと思う」
「面白い意見ですな。では具体的な内容を練ってみましょう」
マコト達は祭りの具体的な内容について話し合う。
祭りの開始日時に開催期間、どれだけの規模にするか、祭り中の守備兵はどうするか、内容は、告知はどうするか……など、
キーとなる部分を煮詰めて具体的にどうするか、アイディアを出して絞り込む。
「……というわけだ。夏の初めである7月1日から2日間の予定で行きたいんだが何か気がかりな事は無いか? 遠慮せずにどんどん出してほしい」
「兵に関しては2交代勤務で片方ずつ休ませるのが許せる範囲内ギリギリです。それ以上だと防衛の初動に手間取りますね」
「分かった。他には?」
上級下級問わず兵士達の意見、または国民の意見も可能な限り吸い上げて反映し、まとめていく。
計画がまとめあがるまでに晩春までかかり、そこから急ピッチで準備を始め、もちろんラタトスクやその他伝道師による宣伝も欠かさず行い、何とか間に合わせる。
時は流れ、初夏
「本日、後アケリア歴1239年 7月1日。戦没者追悼式を挙行するにあたり、御遺族の皆様の御参列をいただき、感謝申し上げますーー」
祭りの初日。
午前中は集団墓地に建てた戦没者慰霊碑を前に厳粛な雰囲気の中、戦場で散った者たちに対してマコトが形式ばった式辞をのべる。
その後、シューヴァルから招いた僧侶たちによる鎮魂の祈りが捧げられた。
そして初日は午後から日没まで、2日目は日の出から日没まで、生きている国民たちをねぎらう祭りがおこなわれる。
「さあさあ寄った寄った! 火吹き男のパフォーマンスが見れるのは今ここだけ! 見逃すと後悔するよー!」
「揚げたてサックサクのポテトチップスにフライドポテトはいかがー? 揚げたてのアッツアツだよー! この日のために油を換えたばかりだから味がいいよー!」
移動サーカス団や大道芸人を集めて芸を披露させ、また普段はシューヴァルで営業している屋台も呼び寄せて日本で言う夏祭りのような賑わいを見せる。この祭りの主役である国民達は晴れ着を着てこれまでにない大きなイベントに心を躍らせており、おおむね好評なのか町の中は活気にあふれていて祭りを楽しんでいるようであった。
「ようクルス。祭り、楽しんでるか?」
「まぁな。一応ダチもその親も楽しんでるみたいだから上手くいってると思う。それとポテチ代くれないか? 小遣い少なくてさぁ」
「良いだろう。母さんには内緒だからな。思いっきり遊んで来い」
息子の感想が確かならば、これで国民は多分満足しているだろう。それを聞いて一安心といったところか。
「「おお~」」
「うわぁ……キレイ」
日没直後、国民のだれもが夜空を見上げ、打ち上げられる花に感動する。
祭りのフィナーレは2日目の日没直後に打ち上げられる花火。初夏の夜空を彩るそれは幻想的な美しさを見せる。
その美しい花に誰もが見とれていた。
以降、ハシバ国で毎年夏の初めを告げる祭りはこの時から始まったと言われている。
【次回予告】
都市国家アムネリア。鉄壁の守備を誇るそこはヴェルガノン帝国の新兵器の試運転相手となってしまった。
第54話「骨の巨人」
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